───撮影が夕方で終わった今日。
会いたくて会いたくて仕方なかった、大好きな来栖さんと会えることになった。
来栖さんの仕事が終わるのが17時半。
18時には現場近くまで車で迎えに来てくれることになっている。
あと少しで会えるのに、その少しがとても長く感じて、昨日の夜はまるでクリスマス前夜みたいな気分だった。
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「道が混んでて遅くなった」と言いながら来栖さんが現れたのは17時50分を少しすぎた頃。
スキャンダルにならないようにと、来栖さんとの待ち合わせ場所までかおるちゃんは同行してくれて、最高なアシストで私を来栖さんに引き渡してくれた。
来栖さんと合流するのは18時を過ぎるかもしれないと思っていた私にとっては、”遅い”どころか会えるまでの時間が短くなって得した気分だった。
そのまま来栖さんのマンションまでやって来た。玄関を入った瞬間、来栖さんの匂いに包まれる。
久しぶりに来ても、何ひとつ変わらないシンプルな部屋は来栖さんらしくて安心感すら覚える。
言いながら、着替えのために寝室へと向かってしまった来栖さんは、久しぶりに会えたって言うのに、いたっていつも通りで……。
あれ?会いたかったのも、寂しかったのも、久しぶりに会えて嬉しく思ってるのも……もしかして、私だけなのかな?
もしそうだとしたら、私と来栖さん間には温度差があるってことで。そんなの……悲しすぎる。
***
来栖さんがササッと手際よく作ってくれたオムライスを頬張りながら、最近のことを報告し合う。
とろふわの卵に包まれたケチャップライスは、ほんのりバターの風味と野菜の旨味が感じられて、私が作るものより数倍美味しい。
……もっと、料理の勉強もしないと。
そう言って勝ち誇ったように笑う来栖さんに、ムッとするのはやはり私がお子ちゃまだからなのか。
……ふと、忘れそうになる。
私がまだ高校生だということ、それから来栖さんが社会人でおまけに警察官なのだということも。
来栖さんのお嫁さんになりたい。
その一言は、恥ずかしさからか、それとも自信のなさがそうさせるのか、喉につかえて言葉に出来なかった。
───~♩♩
来栖さんの言葉に、目を見開く。
咄嗟に聞き返したところで、テーブルの上に乗っていた来栖さんのスマホが着信を知らせた。
「悪ぃ」と言いながらスマホに手を伸ばし、ディスプレイを見て少し眉間にシワを作った来栖さんは、そのまま応答ボタンをスライドさせる。
電話の向こうから聞こえてきたのは、間違えようもない女の人の声。甘ったるい話し方になぜか少しヒヤッとする。
とは言え、「来栖先輩」という言葉に、職場の後輩かもしれない……と、瞬時に自分を落ち着かせる。
でも、今まで女性がいるなんて聞いたことないような気がして正直、電話の内容に気が気じゃない。
思いのほか優しい声で話す来栖さんに、モヤモヤしつつ、電話の行方を静かに見守ることしかできない私。
まるで、はじめはポツポツと降り始めた雨が、突然ザーッと土砂降りに変わった時みたいに。
私の心の中に大きな大きな水たまりを作っていく。
電話の向こうの女性は、明らかに来栖さんに好意がある。
それに勘づいてしまった今、仮に電話が終わったあとに、来栖さんから『心配するな』と言ってもらえたとしてもきっと私の不安は拭えない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。