あの日。
僕と裏坂先生が出会った日。
知人の勧めで入ったこの桃丘学園。
入学するのは容易だったが、なんというか、合わないのだ。
僕は保健委員の石鹸補充で、各階の水道を回っていた。
「でさー、そんときあいつがさー」
「マジで?やば」
この声知ってる。隣のクラスの奴だ。
僕はササッと隅に隠れた。
見つからないかとドキドキする。
…彼らは通り過ぎたようだ。
ふぅ。危ない。
僕は人と関わるのが好きではない。
なおさら友達なんて面倒臭いものはもちたくない。
そういえば、保健の先生って誰なんだろう。
さっき保健室に石鹸を取りに行った時は誰もいなかったもんな。
委員会の時は風邪で休んでいたのだ。
おずおずと扉に手を伸ばす。
(ガラガラ
保健室は清潔な、石鹸のような匂いがした。
僕は辺りを見渡し、前方に白衣をまとった人物を見つけた。
スタスタとこちらに歩み寄ってくる。
その先生は、僕の手から石鹸の残りを取るとこっちにおいでと言った。
そう言って先生は、引き出しの中からガサガサとプリントを探し始めた。
大丈夫かこの先生…と思っていると、扉が開いた。
1人の男子生徒が顔を覗かした。
僕は保健室を出た。
あとから先生の呼び止める声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
___あいつ、あいつ…、なんで…
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!