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第14話




その日、窓から見えたのは、不思議に静かな青森の夏でした。


街で一台しかない大きなラジオの前に、あかねと美代とその家族たちがぺたりと伏せっていました。
ひび割れた大きすぎる音がビリビリとガラスを振るわせ、それでいて何を言っているのかさっぱり分からないのが滑稽でした。



八月十五日、わたしは何もしらないローレライでした。





祐から、数年ぶりの葉書が届いた次の朝。

早くに起きたあかねは、可愛い紅の浴衣を脱いで、灰の着物に着替えてしまいました。
何も言わないまま、トランクへ荷物を詰め始めます。 手伝いの両親や弟妹たちも、示し合わせたように押し黙っています。

……やっぱりわたしは取り残されていました。
ひとが何かを始めるとき、多くの場合、わたしはその時まで何が起きるかわからないのです。
戦争だって、そうでした。



たすき掛けのおんぶ紐で美代を背負い、わたしは別離を悲しむ暇もなく小瓶に移し替えられました。
何年かぶりの小瓶は相変わらず窮屈で、そしてあかねが一言も発さないのが妙でした。

静かに締められた門。話し声の聞こえない青森。美代の泣きじゃくる声だけが「音」でした。
むかし東欧の海から見た巡礼の尼のように、重々しい足取りであかねは家を出ました。



結局、さむくてあたたかい青森には、二年と少ししか滞在しませんでした。
それは永いわたしの生涯の中でまばたき程度のものでしたが、今でも心に深く刻みつけられています。


岬から舟に乗ります。これから、慣れ親しんだ東京に帰るのです。
長い舟旅の始まりは、見送り人のない寂しいものでした。同じように東京へ向かう人々で舟はごった返し、視界は退屈にも均一でした。
わたしは人を眺めるのに飽き、いつからか眠ってしまいました。



目が覚めれば、そこは焼け野原の東京でした。