──埃臭い書庫。
本が痛まないように直射日光を避けたその場所は
吸血鬼にとっても居心地が良い。
吸血鬼は、進化するにあたって様々な変化を遂げた。
例えば、ロザリオやニンニク、太陽なんかは苦手だけど死ぬようなことはない。
血を飲み続けなくても生きていける。……まぁ、力は弱く、寿命は短くなるが人間よりだいぶ長いことに変わりはない。
その代わりコウモリに変身したりはできなくなった。
全体的に人間に近づいているのだ。
その最たることが──
ジルエスタは一冊の本を手に取る。
華美な装丁の施された、貴族の好みそうな本である。
そのタイトルは──
『吸血鬼は滅びるか』
吸血鬼の人工は年々減少している。
寿命が長い生き物ほど子供が少ないのが常だが、吸血鬼もその例に漏れない。
跡継ぎの欲しい家は跡継ぎだけを産む。
二人から一人しか産まれないのだ。そりゃあ人口も減るだろう。
王が人間との和解のため、吸血鬼の増える主な手段だった人間の吸血鬼化を禁じたことが原因の一つとされている。
自分にそう言い聞かせて目を閉じた。
そして再び目を開け、そっと本を開く。
『人間を吸血鬼化する方法』
細やかに書かれている内容は、これを禁書として書庫に厳重に保管されるだけに足る物だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!