zm side
最近、エーミールがやたらとプレゼントをくれるようになった。
数本の花を束にしてくれるのだが、毎回種類が違う。
最初の頃は吃驚してたけど、最近は段々慣れてきてお返しがしたいなんて思い始めている。
残念ながら花の知識がない為、貰っている花の種類はわからない。
軽くお礼を言えば、彼は満足そうに微笑んだ。
……………………………………………………………
部屋に戻り、早速貰った花を花瓶に差し込む。
家具が少ない殺風景な部屋に彩りを加えてくれる花は、より美しく華やか見えた。
花を見つめながら、小さく呟く。
ふと何の花なのか気になり、エーミールに聞きに行こうと彼の部屋に向かおうとした。
勿論、ダクトから。
……………………………………………………………
天井からぶら下がり彼の名前を呼ぶと、いい反応が返ってきた。
集中して本を読んでいたらしく、椅子ごと後ろに倒れながら本を虚空にすっ飛ばしていた。
本だけはキャッチして助けてやり痛みに顔を歪ませている彼に渡しながら、小突く様にそう言ってみる。
怒ったと思ったが、彼は
と、楽しそうに笑いながら言うので、正直驚いた。
彼にそう聞かれては、彼の驚いている姿が面白くて忘れていた本題を話す。
一瞬、悩む素振りを見せたが、了承してくれた。
どれも聞いたことがない花ばかりだ。
彼が理由もなくこういうことをする人ではないと思い、そう聞いてみる。
彼は優しい笑みを浮かべながらそう返してきた。
何だか疑わしかったが取り敢えず花の種類は聞けたので、軽くお礼を言って一旦部屋に戻ることにした。
今度はダクトからではなく、扉から。
……………………………………………………………
道中、やはりエーミールの事が気になって仕方がない。
花自体に意味があるのか…?
正確な答えは出てこないが、不思議と考えたくなる。
考えすぎて周りが全く見えていなかった為、不意に声を掛けられて驚いてしまった。
確かに、大体ダクトから部屋を移動している自分が廊下を歩いていたら珍しいものだ。
それも、会議や食事の時間でもない時に。
なんとなく誤魔化したくて、質問で返してみる。
彼の顔をみれば書類が終わっていない事を物語っていて、取り敢えず
と釘を刺しておいた。
当の本人は苦笑いだ。
唐突にそう聞かれ、それも図星だと流石に驚いた。
此奴書類終わってへんくせに…。なんて思うが、丁度いいので相談相手になってもらおうと、先程の事を全て話した。
最近エーミールがプレゼントをくれる事、その中身は花という事、そして…特に意味はないと言っていたことがどうしても気になるという事。
彼は真剣に聞いてくれていて、少し難しい顔をして暫く考えた後こう言った。
鬱にしては中々に鋭い所をついたものだ。
花言葉なんて選択肢は最初からなかった為、なるほど…と納得してしまった。
彼はニコッと笑いながらスマホを取り出した。
画面を見つめながら彼と一緒に調べていくと、ある事にすぐ気がついた。
……気付けば、鬱を置いてエーミールの部屋に向かって走っていた。
久しぶりに全力で走った。
ものの数秒でエーミールの部屋の前まで来た。
ノックもせずに扉を勢いよく開け、大声で名前を呼ぶと、彼は再び驚いた顔を見せたが本をすっ飛ばしたり倒れたりは流石にしなかった。
彼は優しい笑みを浮かべ、嬉しそうにそう言った。
唐突にそう言うと、当たり前だが彼は再び驚いた顔をする。
にっこりと笑ってみせると、彼は驚いた顔を変えずに此方を見つめていて、涙を流していた。
心配になり駆け寄って声を掛けると、
と、泣きつつも笑顔で言った。
…………あぁ、いつからか、この優しい声に、最高の笑顔に、惹かれていたんだな。
彼の頬を伝う嬉し涙を優しく拭ってやり、変わりにキスを落とす。
彼の顔を覗けば、ほんのり耳を赤く染めながら恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑っている。
その表情を見て、自然と自分も笑っていた。
────────────────────
各種の花言葉
シクラメン→「憧れ」 (「内気」「はにかみ」)
ルドベキア→「あなたを見つめる」 (「正義」「公平」)
カタクリ→「初恋」 (「寂しさに耐える」)
ベゴニア→「片思い」「愛の告白」「幸福な日々」 (「親切」)
リナリア→「この恋に気づいて」
──────────────────────
──────────雑談──────────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。