リビングへ戻り、机を囲む。
窓の外に目を向けるとちょうど太陽が真上に上がったところで、雲一つない青い空が広がっていた。
そんな事を言いながら机に突っ伏すおらふくんに、僕らの笑みは深くなる。
そう言いながら、机の上に皿を並べていく。
出来たてのようで、目の前でほかほかと湯気をあげるそれらに、おらふくんの目が輝いた。
ぼんさんが机の真ん中に置いたジャムの瓶をかっさらうと、パンに少し塗って齧り付いた。
いつの間にか手元の皿が空になっていた2人が元気よく手を上げる。
笑顔で頷いたおじいちゃんが、キッチンへ向かうべく立ち上がった。
2人の食べる速さを実感しながら皿に手を伸ばすと、コツンと指先が皿に触れる。
僕も人のこと言えませんでした。
出来たてのパンを頬張りながら、ぼーっと机を見る。
そのうち思考は、数分前の治療へと戻っていく。
平和な朝の空気を突き破るように、おんりーが戻ってきて。
傷だらけのおらふくんを見た瞬間、僕のなかでスイッチが入る音がした。
久しぶりに医療の知識を引っ張り出したが、なんとかなって良かった……本当に。
あんな怪我をしていたおらふくんが元気にはしゃぐ声を聞きながら、僕は背もたれに身を預けた。
前からも横からも、楽しそうな話し声。
本当に気づかなかった様子のおらふくんに、思わず吹き出してしまう。
それにつられて、ぼんさんもおじいちゃんも、おらふくん本人も笑いはじめた。
明るい笑い声が、食卓に広がる。
笑いだしが早かったことからみんなより早く落ち着いた僕は、おかわりしてもらったスープを飲んだ。
その温かさに、思わず声が漏れる。
……いや、温かいのは、スープだけじゃない。
今、大勢で食卓を囲み、笑っている。
その輪のなかには、僕らが命を救えた子の笑顔もある。
この事実がどれだけ、僕の心を温かくしたのか。
スープを飲み込み微笑んだ僕に、ぼんさんが優しい視線を向けていた。
片付けの途中、僕はおらふくんに声をかけた。
本当は片付けのあとでも良かったのだが、全てを察したおじいちゃんとぼんさんが残りの片付けを引き受けてくれたので、早速リビングへ向かう。
ソファに座ってもらい、包帯やガーゼを取っていく。
相変わらずひどい傷だが血は止まっているようで、ほっと一息つきながら新しい包帯を巻いていく。
そうして、古い包帯を処理しようとしたところで、その違和感に気づいた。
包帯に付着している、黒い煤のような汚れ。
血ではないようで、軽く擦ってみても消えない。
皮膚が取れたのかと一瞬思ったが、質感が違う。
それに………
しばらく固まっていると、不安げにこちらを見つめるおらふくんに気づく。
そこで、外から足音が聞こえてくる。
静かに扉を開けて、おんりーとMENが入ってきた。
食器洗いも一段落したようで、2人もキッチンから顔を出す。
そう言いながら差し出したのは、指先ほどの小さな結晶体だった。
一見すると紫色の水晶のようなそれは、リビングの灯りを反射して鈍く輝く。
僕が受け取った瞬間、バチっと静電気のような痺れを感じ、耳の奥でキィィンと高い電子音のような音が響いた………気がした。
手の中の破片は、生き物のように震えている。
向こうで見たどの宝石とも違う。
これは「物質」の形をした、「何かの概念」のように思えて仕方がなかった。
おんりーから受け取ったそれを、僕はとりあえずポケットにしまった。
一足先にパンを頬張っていたMENが、ふと声を上げる。
みんながその話題について話す中、ぼんさんは違う方向をじっと見つめていた。
その先では、おじいちゃんは一人背を向けて、お茶を淹れている。
ぼんさんだけが気づいていた。
その手が、わずかに震えていることに。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。