第13話

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2024/03/18 17:47
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天使の天秤は、壊れている。

この世の*摂理は、人間にしか有効でなく、天使(わたし)たちは導く側である。

(*摂理…キリスト教で、創造主である神の、宇宙と歴史に対する永遠の計画・配慮のこと。神はこれによって被造物をそれぞれの目標に導く。/goo辞書より)


神の手伝いをするはずの私たちは、負の感情を知ってはならない。

穢れてはならない。

穢れることの無い神のおそばで、使命を全うしなければならないのだ。


見返りを求めぬ私たちは、人間を愛し人間を愛さなければならないのに。


天使同士でも、天使と人間でも恋はしてはならない。



感情の天秤が釣り合わず、恋に落ちた時、その天使は堕天使となる。
人間は、生まれながらにして罪だから、その罪を被る(こうむる)ことはないのに。


そう、だから、天界の天秤は壊れている。


天使と人間の掟を公平にしろと言ってるわけじゃない。
天使は天使の掟があり、人間は人間として生きる上でのルールが存在するからこそ、この世界は平等であると言える。ただ目標に、届くか届かないかは個人の技量や人生を全うできるかどうかは個人の努力の範囲の違いによるものとなる。



私は天使として、生まれたのに。
あの日捕まらなければ。
自分にもっと天使としての力があれば。
もっとジェノたちと訓練しておけばよかった。
恋なんかしなければ。
こうして後悔するのも、堕天使の証拠。天使のままなら、落ち込むことはなく、さらに上へと高みへとめざしてゆけるのである。
でも、私はもう、堕ちてしまうから。

ジェノと心が通じ、愛し合っていると、お互いのいちばんは貴方だと自覚していればこんなことにはならなかった。





悲しさばかりが募り、ディープキスをする私たちの周りを滞りなく黒い炎が燃え上がり、羽が真っ黒に染ってゆく。
堕天使だからだろうか、羽の質感は変わらずにただ黒になるだけ、コウモリのような羽にはならない。

ジェノがゆっくりと唇を離すと、泣きながら、あの笑顔で、私にゆっくりと笑いかける。




🐶「あなた、君がいつか寝てる時に、実はこっそり君にキスをした」
「ふ、あははっ、今言うこと?ジェノ、私たち、天使じゃいられなくなっちゃったよ」
🐶「あなたがそばに居るなら、いいよ」
「じゃあ、ジェノのファーストキスは、私だったの」
🐶「あなたにさえ教えたくなくて、ずっと隠してた。だって言ったら、こうして、またキスしたくなる……し……ちゅーしたらあなたは僕に好きって言いそうだったから」
「……意地悪!笑」





もう何も怖くない。
ウリエル様が物凄い勢いで飛んできて、なにか叫んでる。
でも私たちを囲む黒い炎は消えることなく、その声は届かない。


2人で抱き合って、そのまま堕ちようとした瞬間。
パッ!と黒い炎が消え、私たちの姿は天使からまっ黒い羽の生えた堕天使になった。




UL「お前たち……!!愛を誓ったのか……!?」
GL「掟を破ってまで……!!」





私はもう、行こうとした。向こうに、行こうとした。
その時、ウリエル様がジェノを私から引き剥がし、ウリエル様の手元へと引き寄せる。





🐶「ウリエル様!?」
「やだっ、、じぇの!!」
UL「ジェノ、君はまだ間に合う。その羽の根元はまだ白い、君は、まだ堕天使に、なりきれてない」
🐶「?!」
ML「このままじゃ……あなたが堕天使のままここにい続ければ、また悪魔たちが襲ってくるのも時間の問題だ。あなた、君は美しかったのに」
「っ、今更、ミカエル様、」





もう、私は8割堕ちてしまった。堕天使になったこの体から、天使に戻ることは出来ない。






🐻「そもそもどうして……あなたはアザゼルに襲われ、勝手に悪魔に力を注がれただけです。それが原因だと言うのに、どうしてあなたが堕天使にならなくてはいけないのです」
ML「その悪魔の力に打ち勝てるほど、神への愛が強ければ良かったんだよ……分かるかい。その悪魔の力に感情を動かされて、結局神への忠誠を、愛する気持ちが足りなかった。その分、あなたはジェノを愛してしまっていた」
🐻‍「あなたが神に忠誠を誓わなかった、愛していなかったと言うのですか」
ML「……そうだね、僕が悪かった。ヘチャン、君の言うことは正しいね。あなたはあなたなりに神を愛していたのに」
🐻‍「……ッ、人間を守るための犠牲ということですね?」




ミカエル様は、何も言わなかった。


二人の会話を聞いて、絶望した。
私は、神への愛も忠誠心もあったのにも関わらず、あの抗争で悪魔が人間を支配しようとした際に被害を受けた、犠牲者の1人だったのだ。


私は、私の力が弱いのではなかった。
そうだと思い込んでいたのに、私の力不足という訳ではなく、ただ、本当に、タイミングが悪かったのだ。


そして結局、私がアザゼルに連れ去られ、更に魔に染められたからこそ、アザゼルが逆に人間に手を出し、人間界を襲うことがなかった。
つまり、私は人間界を救うために、助けることの出来なかった犠牲者だった。


天界と魔界の天秤を、調和を摂るための犠牲。
私は、堕ちなければならなかったのである。


私が連れ去られ、襲われてから戻ってきた時までの事を、ミカエル様たちはご覧になっていたのだ。
つまり、わかっていた上で私を助けなかった。
万が一私を助け、私が天界に戻れば、私がいつまでも見つからずアザゼルは腹いせに人間の魂を食い殺していただろう。

そうなっては、この世のバランスが取れない。




人間界を助けるための、私は犠牲だった。


ウリエル様がジェノの羽に触れれば、少しずつ浄化され、白い羽に戻るのが見える。







あぁ、ジェノ、私を置いていかないで。
私をひとりにしないで。
ジェノ、お願い、私はあなたがいないと、生きてゆけないのに。






ウリエル様が私に手をかざす。
涙で視界が歪み、ジェノが私に向かって叫ぶのが見える。チソンとロンジュンは、大泣きしていた。
マークがガブリエル様に、私がそれでも助けられる方法はないかと話をしてるのが見える。




悔しいね、悔しい。
愛する人間を救うのは、こんなにもうれしいことの筈なのに。もう、私は天使では無いから私が天使のままで彼らを救えなかったことが悔しくて憎くて苦しくてつらい。

天界のバランスを摂るための、犠牲だったなんて。





🐶 「あんで!!!ダメだ!!!いかないでっ!!!あなたっあああああぁっ………」





ゆっくりと堕天使に変わりゆく私に、届かない手を伸ばして珍しく声を上げるジェノを見つめることしか出来ない。
もう、サヨナラなんだろうな、そう思ったのに。






ジェノがウリエル様に頭を下げてから私の元へもう一度飛んできた。






UL「ジェノ!!!!!!!」







🐶「っ、待って、なら……なら、僕が永遠に一緒にいることを誓おう」







天使の輪が割れた。
小さな角が額から生えてくる。
その角を、ジェノがあの細い指ですりすりと撫でてから、愛おしそうに私を見て違う。

ウリエル様は、それ以上止めなかった。
否、止められなかった。




私わ愛するが故に、お別れをするはずの……別れの涙を流すはずのジェノは、その涙を飲み込んだ。
堕ちなければならなかった私に、その永遠を差し出した。
ジェミナがその光景を見て泣き叫ぶ。





🐰「っあぁぁぁなんで!!ジェノヤ!!!あなたっ!!!どうしてぇぇっ」






犠牲が必要だった今日(こんにち)。
きっと後世にも伝えられるであろう、最悪の日。







🐶「大丈夫、ずっとそばにいるよ」








自ら堕ちることを望んだ天使も、また、感情の天秤が…………天使の天秤は、壊れているのだ。

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