第12話

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2024/03/17 09:30
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周りから悲鳴が上がる。
マークが呆れたような顔をして殴りかかろうとしたところを、チソンとチョンロが慌てて止めた。
ジェミンとヘチャンがすかさず立ち上がって、女天使に「ヤァ!!!(おい!!!)」と声を上げてくれたけど、ここまで降りてくることは許されていないから、降りて来れない。
ただ、ジェノだけは誰もが止めなかった。


いくら天使同士が人間よりもコミュニケーションとしてキスをするとしても、流石に親密では無い仲の天使にはしないのだ。
ジェノが女天使を振り払って、私を抱きしめたまま、距離を取った。
バッ!と私の方を振り向く。
自分では見えない、でもきっと酷い顔をしているのだと思う。ジェノが私の顔を見て、泣きそうな顔をして、ジェノの目に涙が湧いた。

大好きな人のファーストキスを奪われたと思いこみ、ただひたすらに、行き場のない怒りと悲しみがグルグルと体の中を駆け巡る。ジェノの布を両手で掴んで、縋ることしか出来ない。






😇「あなた、あなたっ、」
「……やぁっ……ッ、、いやぁあああぁっっっ」







私よりも先に。
大切な人の大切なものを奪われた。

私が何をしたって言うの?
私が貴女に、何をしたの。
女天使は嬉しそうに私を見て笑う。
ジェノが口を拭きながら、私の顔を両手で挟む。



「やだぁっ!!じぇのぉっ、」
😇「あなたっ、落ち着いて、大丈夫っ」
「何がっ、大丈夫なのぉっっ!!」


気付かぬうちに、黒い感情が体の中に溜まってゆく。
本来なら天使は、こんな人間の様な感情は湧かないし、こんな感情ごときで自分の涙まで左右されない。


正直、もう分かっていた。
アザゼルに最初に捕まった時から、その後捕まり、魔術をかけられた時点で、私の中には悪魔の力が注がれてしまっている。
毒抜きのように、この力を外に出すには、ただただ、ゆっくりと時間が必要であることも、理解していた。

でも、たったキスを奪われただけでこんなに感情を揺さぶられている私は、限りなく人間に近い。

アダムとイヴが禁忌を犯し、人間となり、負の感情を身にまとった時のように。私の中にも負の感情が生まれている。

暴れる女天使……彼女のやることは、人間の欲に似ている。特に男性の性欲を掻き立てるための、色気の出し方に似ている。
取り乱す私、頭の中が混乱して、悲しくて仕方ない。ミカエル様の「捕らえろ!」の一言で、女天使が拘束された。




女天使?「私はジェノと仲良くなりたかっただけよ!」




叫ぶ女天使の顔がみるみるうちに、嫌な表情になってゆく。ガブリエル様が女になにか、天使の力をかけた瞬間、女の羽が一気に黒色に染まった。化けの皮が剥がれたのだ。真っ黒な羽の周りに散った真っ白い羽は、舞いながら落ち、そのまま燃えながら消えてゆく。

周りから更に悲鳴が上がる。彼女は一体何者なのだろうか。異変に気づいたガブリエル様もミカエル様も戦闘態勢に入る。
ジェノが、私の体に触るのをお構い無しに私を抱き上げて、そのままさらに遠くへと飛び立った。ジェノの太い腕が腹と胸にくい込んでみぞおちが苦しい。でも、きっとそれほどに必死なのだと感じて、感情がぐちゃぐちゃになる。

ガブリエル様が「何者だ!」と問えば、彼女はニヤリと笑いかけ、大声で叫んだ。
そう、彼女は半分悪魔に魂を売ったそうな。
何が目的かなんて明確だった。




ジェノを自分のモノにしたかったのだ。
私の最愛の人と、私を除け者にして、結ばれたかったのだ。

そのためには、天使でなんて居られない。
天使は掟があるから、恋ができない。
彼女の計画は読めた。きっと悪魔に魂を売り、力を持つことで、ジェノの感情をコントロールし、一緒に堕ちるつもりだったのだろう。

そのためには、隣にいつも引っ付く私が邪魔だった。だからこうしてキスをして、私の感情を揺さぶることで、私の中に負の感情を、溜まらせ、私を先に堕とそうとしたのだ。

私が先に堕天使になれば、その後はジェノを堕天使にして、一緒に堕ちるだけ。
ジェノの心を自分のものに出来れば、私が堕天使で近くにいても、自分達の仲の良さを見せつけ、永遠に私に屈辱的な思いをさせることが出来る、そう思ったのだろう。








そんな幼稚な方法で、私たちの愛が変わるとでも?

一途で真っ直ぐなジェノが気を向けているのは、私なの。
捕まって暴れだした女天使の元に、ウリエル様が飛んできた。


ウリエル様は、地獄タルタロスを管理する支配人である。そして、人間が死んだ後、天国息が地獄行きかをお決めになるような、重大な方だ。そう、この間の抗争が起きて、私が人間界でアザゼルに襲われたあと、アザゼルを倒した人こそ、ウリエル様である。

ウリエル様もミカエル様と同じく大天使と呼ばれ、階級は8番目、下から二番目だが、別の役職を「智天使(ちてんし)」と呼び、上から二番目に属されることもある。



破壊天使と呼ばれる彼は、勢いよく堕天使になってしまった彼女の胸に光の槍を放ち、刺した。
その刺す瞬間、ジェノが慌てて私の視界を覆い、私を自分の素肌のままの胸板にギュッと押し付ける。ジェノの胸に溺れて、息ができない。

女堕天使になってしまった彼女が悲鳴を上げたと共に、ウリエル様がそのまま魔界へと堕とした。



Uriel「裁判は中止だ。あなたもジェノも、今回は緊急事態だろう。天使がこれでどうする?タルタロスに堕ちたような、悪事を働いた人間共と同じ感情を持っては、愛する人間たちに示しがつかぬ。神のお考えに背くつもりか?恋に溺れるなとは言わぬ、だが、掟がある以上、同じ天使同士に向ける感情ばかりに気を取られ、本来人間を愛するはずの天使が、仕事を放棄してどうする?神に背くつもりか」

😇「申し訳ございません」
「ウリエル様ッ……うぅ"〜ッ、ごめんなさい、申し訳ありませんっ、」


UL「分かれば良い」




本来人間を愛し、人間のために働かなくてはいけない私たち天使は、天使同士の恋に溺れてこんな裁判なんて、している場合ではなかったのだ。
ウリエル様がため息をついてから、ミカエル様とガブリエル様と一緒に去っていく。

ジェミナたちが集まってきたのが分かる。



ただ、私は涙が止まらない。


だって、こんなはずじゃなかった。もっと幸せを感じて、人間のみんなのことも幸せに導くはずだったのに。
ジェノに抱きしめられたまま、ひたすらに泣くことしか出来ない。自分は頑張ってきたはずなのに、空回りばかりして周りに迷惑ばかりかけて。この7人に守られて育って、反感を買って襲われて。ジェノのことも傷つけた。
私は、私は。



🐬「あなた!!!!!」



ジェノの胸に顔を押し付けて泣いていた時、チョンロが私の名前を呼んで、私をゆび指した。
ヘチャンやロンジュンが驚いた声を出す。





ジェノが私の羽を撫でて、突然泣き出した。
ジェノの溜まっていた涙がボロボロと零れ落ちて、私を濡らしていく。






😇「あなた、」


「ジェノ、っ?」


😇「僕は君がどんな形になろうとも、ずっと一緒にいるから、安心して」


「ジェノ、どうして泣いてるの?ジェノまで泣かせて、ごめんなさ」


😇「違う……違うよ、あなた、謝るのは僕だ。守ってあげられなくてごめんね」


「ジェノ?どうして……泣かないで?ジェノ、わたし……」



😇「あなた、はね、ひろげてごらん」





ジェノが泣きながら微笑む。
ゆっくりと羽を広げれば、片方、真っ黒に染まった自分の羽。







「う、そ」
















😇「大丈夫、すぐそばに行くよ。……あなた愛してる」



🐰「ジェノ!!!!!!!!!!!お前!!!その言葉!!!!!!!!!」










負の感情を知った。
嫉妬と自責の念と、後悔と怒りに駆られ、真っ黒に染った私の感情は、私の羽を黒くしてゆく。
ジェノが言ってはいけないと知りながら、私に愛していると告げ、私に深く深く口付けをした。


ウリエル様がこちらを振り向いた。
真っ黒い光が私たちを取り囲んで、炎が燃え上がるかのようにその場で天へと溢れ散る。



ジェミナたちの叫び声が聞こえる。
ジェノは、唇を離してくれなかった。

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