第10話

9 JenoSide
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2024/03/13 07:55
9
愛した子が、目の前で大嫌いな男に無理やり裸体にさせられている。
これほどに絶望することは無かった。

性欲がすべてじゃない、そんなの僕もわかってる。
でも、それでも恋が許されない、そういうことをすることさえダメな僕らは、お互いの裸体を見るのなんて、特別な時だけなのに。
それをいとも簡単に、僕が絶望するのをわかっていて、今この目の前いる悪魔はあなたの布をぬがせた。


綺麗なからだ。
愛らしい曲線。
僕だけがみたかったのに。
虚ろな目をして、羽も真っ赤な血で血まみれ、腹も腕も恐ろしい色をしていた。
天使だから、死なない。容易には、死なないけど。
でも。


君を助けたいのに。あなたを助けて、今すぐ戻りたかったのに。




天界に戻った時、あなたが帰ってなくて、僕びっくりしたんだ。
慌ててまた人間界に戻って、君を探そうと思ったのに、あなたはアザゼルに連れていかれたって情報を聞いて。
急いで魔界へと向かう。途中で悪魔に捕まり、攻撃されるも、あなたのいる場所をつきとめた。
あなたがいる感覚がわかるから。
近くにいるって、分かるんだよ。


僕もシトリーとかいう、悪魔に無理やり性欲をかきたてられて、おかしくなりそうだった。
悪魔にされる。
交われば、僕も悪魔になってしまう。
あなたを置いて、1人で悪魔になるわけないかない。


あなたが天使でいることを諦めようとしていた所で、みんなが助けに来てくれた。
みんなのおかげで救われた。


天界に戻ってきて、あなたはチソンと、もう一度ラファエル様にも治療をしてもらったけど、それでも注ぎ込まれたのであろう悪魔の力を抜き取り、怪我を治すまでに半日かかった。



あなたは完治してから、僕の羽の上で寝かせてる。
優しく抱き寄せて、新しい布で体を覆ってあげてある。
また、平和な時が戻ってきた。
可愛い顔、綺麗な肌、綺麗な羽。全部、元通りになっていた。



😇「あなた、、」



好きだよ、の四文字が言えない。
伝えたいのに。



みんなもぐったりして、その辺に寝そべってる。
今日は、さすがに仕事をしていられなかった。上司も目を瞑ってくれた。
ヘチャンが「僕の言うこと聞かないから」って拗ねてる。いや僕だって、まさかこんなことになるとは思ってなかったよ。


あの時、やっぱり一緒に行けばよかった。
帰りに何があったか分からない、でもアザゼルに見つかって、連れ去られたことは間違いない。
僕がいても、同じだったかもしれないけど、僕が居れば助かる確率は少しでもあった筈だ。

大好きな君のために、何も出来なかったのが悔しくて仕方なくて。
シトリーに迫られた僕は、みっともない姿だった。
頭ではわかっているのに、抗いきれずに興奮しそうだった。
必死に頭の中で目の前にいるのはあなただったら、って、何度も思った。


離したくない。あなたを、離したくない。
こんなにも辛い思いをするなら、僕らはいっその事堕ちてしまえば良かった。
僕らは天使で居なければならないなんて決まりはないよね?


🐰「世話が焼けるね、ほんとに」
😇「!!ジェミニ…ごめん」
🐰「無事……じゃないけど、まだ、どこにいるか突き止めることが出来て良かった。でもお前は後で処罰を受けるでしょ、なんも言わずに身一つで悪魔の所に行ったんだから」
😇「……あなたの為ならどんな罰でも受けるよ……ジェミニ、ありがとう」
🐰「…お礼は僕じゃなくて、あの子たちに言ってあげて」


ジェミナの頬にも泣いたあとがあったから、僕らを助けてから安堵のあまり泣いたのだろう。
そんなつもりじゃなかった、大切な人を泣かせるつもりはなかったけど。

あなたと一緒にいる期間は長い。
僕は性格的に、共に過ごすときが長ければ長いほど仲良くなれるから。あなたとはもう何十年も一緒に天使として過ごしてきた。
彼女だけは何より特別だった。
すやすやと眠り続けるあなたを優しく抱きしめる。もうどこにも行かせない。何があってもそばにい続ける。僕が、僕が君の身代わりになろうとも。


グリゴリの僕とあなたの分の仕事は当分、ジェミニたちが代わることになった。
負担が増えてしまったけれど、残りのジェミニた6人に任せておけば心配はないだろう。



あなたの傷口はもう塞がっていて、きれいな肌に戻っていた。あんな、蝶の標本のようにするなんて。キリストと同じ姿が蘇る。酷い、あまりにも酷すぎる。
どうしても許せなくて、あなたが今僕に抱かれてる事が何よりの幸せで、眠り続けるあなたに頬擦りをする。



😇「……あなた、」



優しく名前を呼べば、ゆっくりゆっくりと開かれていく瞼。



😇「あなた……っ、、」
「じぇ、のっ……うぅっ……ごめんなさい、私、」
😇「大丈夫、大丈夫だから」
「……ジェノ、」
😇「ん……」



あなたが羽をキュッと縮こませて、僕の胸板に顔を埋(うず)めてくる。その可愛い仕草に悶絶しながら、優しく頭を撫でてあげた。




🐰「お、僕らのエギ、起きたの?」
「ジェミナ」
🐰「はーい、ジェミンですよぉん♡」
「迷惑かけてごめん」
🐰「仕方ないことなんだから、謝らないの。へチャナの言う通り、もう二度と離れたりしたらダメだよ。1人で居ないでね」
「うん、」



抱きしめる僕の羽の間から、ジェミナがあなたを優しく撫でる。
ジェミナの手を取ったあなたが、嬉しそうにジェミナにもすりすりと擦り寄った。
優しく解放してあげれば、ジェミナにギューってしてもらってる。



「包容力すごぉい笑」
🐰「でしょぉん?笑……またジェノに行かないでってされちゃうよ笑」
😇「言わないでおく笑」
「ふふ♡チソンアにも、ありがとうしなきゃ」
😇「今仕事しに行ってる。もうすぐ戻ってくるよ、待とう」
「はぁい」



待ってる間、あなたに結局何があったのかを聞けば、人間の男を助けたと言う。
聞く範囲内では、よく人間の間で絵画などに描かれ、伝説とされてきた話に近いから、きっと人々の中で広まっても支障がないレベルだ。
ただし、そのせいであなたは力が弱くなって、アザゼルに襲われた。
今後は誰かと一緒にペアで過ごして、あなたには無理させないようにしなければならない。



😇「今度から絶対、僕らから離れたらダメ。出来そうにないことは、僕らかがどうにかするから」
「ん……甘えていいの?」
😇「……ふ、うん♡」
「へへ♡ジェノ、ありがとう」



て指を絡ませて、あなたとおでこをくっつければ、チソンが戻ってきた。



🐹「あ!ヌナ!起きたんですね、大丈夫ですか?調子は、どうです?」
「チソンア〜!!ありがとう、もうなんともないよ、助けてくれて本当にありがとう」
🐹「いいんです。これからは僕も度々そばに居ますから」



だから……その……頼ってください?って恥ずかしそうに言うチソンアに、あなたがニコニコ笑ってる。
ちょっとだけ、モヤモヤ。
独占欲ってやつかな、これ。


……あなたは誰のものでもないのにね。
天使は誰のものにもできない、神様のものなのにね。

それに背けば、僕らは堕とされる。
分かってる。



それでも、いつか、僕は君と堕ちる覚悟もできてる。



なんだか嫌な予感がするんだ。
これだけ対策をしているというのに。

愛のカタチが、崩れる音が、向こうの方から聞こえる気がするんだ。

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