俺は玄関に並べられた4つのスーツケースを呆れながら見る。
父さんはまあまあと言いながら今もまだ荷物を増やし続けていた。
ふと母さんの方に目をやると母さんは何度も荷物を出しては中に入れを繰り返していた。
母さんはヒナの言葉を聞き「心配だわ」っと呟く。
結局、俺とヒナがどれだけ急かしても何度も何度も荷物整理をしていた為、少し遅れて出発した。
車に乗り込むとシートベルトの音が一斉に鳴る。
ヒナがそう言うと父さんと母さんはごめんと言い反省していた。
父さんがエンジンをかけると少し遅れてラジオから懐かしい音楽が流れてくる。
父さんはそういいながら歌い出す。
するとすぐさま文句や批判が飛んでくる。
父さんのそんな言葉に父さん含めた全員が笑う。車内の空気は少しだけ温かくかくなった気がする。
市街地を抜けると景色はゆっくりと変わっていった。
そんなどうでもいい様な話を交わす。でもそんなどうでも言い話がとても心地良かった。
山道に入ると景色がゆっくりと変わっていく。
窓の外の縁が一気に濃くなり、空が近くなる。
少しだけ窓を開けるとひんやりした風が入り込んできた。
父さんは目の前の景色を少し切なそうに見ていた。
風が入り、車内の匂いが少し変わる。父さんはスピードを落とし、ハンドルを切った。
父さんのその言葉に誰かが「分かる」と小さく言った。
カーブが続き、ガードレールの向こうに木々が重なって見える。
ラジオの音だけがゆっくり流れていた。
それは本当にただのドライブだと感じる程だった。
心地いい、、そう思えていた、、、
次のカーブを曲がった、そのとき。
ヘッドライトの先、道路脇の暗がりから、茶色い影が弾かれたように飛び出した。
一瞬、何か分からなかった。
次の瞬間、それがたぬきだと理解する。
丸い体が、迷うように一拍置いて、そのまま道路の中央へ出てくる。
父さんの声と同時に、父さんが強くブレーキを踏み、ハンドルを切った。
タイヤが軋む音が、さっきまでの会話を切り裂く。
体が前に投げ出され、シートベルトが胸に食い込む。
視界が大きく揺れ、フロントガラスの向こうで、たぬきの赤い目が一瞬だけ見えた気がした。
次の瞬間、車はガードレールにぶつかり、そのまま宙に浮いた。
金属がきしむ音。
ガラスが割れる音。
空と木々が、何度も視界を横切る。
ほんの数分前まで、どうでもいい話をして、笑っていたはずの時間。
それが壊れる音だけが、やけに長く、耳に残っていた。
次に目を覚ますとそこは瓦礫の下だった。
一瞬で理解した。崖から落ちたのだと、、、
激痛が俺に走る
俺が目を開き辺りを見渡すとそこには、
下半身と上半身がバラバラに離れている母さんと
顔半分が岩の下敷きになって虚ろな目をしている父さんがいた。
俺はすぐさま体を起こし四つん這のまま父さんと母さんに駆け寄る。
先程まで笑いあって居た
温かかった空間は一瞬で壊れ果てた。
弱々しい声で俺の名前を呼ぶヒナの声が聞こえた。
俺は急いでヒナの方に向かう。
ヒナを見るとヒナの足は瓦礫の下敷きになっており、頭から血が流れていた。
俺はヒナの瓦礫をどかそうとする。
ギシギシとなる腕なんて気にならなかった。
瓦礫をどかし、俺はヒナの上半身を軽く持ち上げる。
ヒナの呼吸は荒々しく弱々しい肩で息をしていた。目は今にも閉じそうだった。
俺はヒナをおんぶして山を大急ぎで降りる。
足がミシミシと悲鳴をあげる。
激しい痛みが俺を襲う。
ヒナの呼吸はさっきより少なくて体が少しずつ冷たくなるのが感じる。
ヒナはそう言って俺の背中に顔を埋める。
俺がそう言うとヒナは嬉しそうに笑う。
さっきまで弱々しい力で俺に捕まってたヒナの手は人形のようにだらんとする。
ヒナが冷たくなるのを感じる。
さっきまで聞こえていた心臓の弱々しい音は全くと言っていいほど聞こえなくなった。
それでも俺は病院に向かってまだ走り続ける。
何度も何度もヒナに「大丈夫だ」「お兄ちゃんに任せろ」と声をかけ続ける。
ヒナからはいつになっても返事は来ない、、、
俺の頭に何度も何度もみんなの声が再生される



何度も何度も皆の幸せそうな顔が幸せそうな笑い声がそして、みんなの
死んだ姿が
頭から離れない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!