「ねぇ〜〜〜〜〜国木田くぅん!」
「黙れこの包帯無駄遣い装置!」
そこは武装探偵社の一角。
今日も今日とて、其の場所は和気藹々としていた。
「ねぇ国木田くん!私もう帰りたいのだけれど」
「まだ仕事の一つも終わっていないだろう
この唐変木!せめて終わらせてから帰れ!!」
彼にそう強く言い聞かせる長身の男――国木田独歩。
其の彼に意見を豪語する青年――太宰治。
「太宰さん!ちゃんと仕事してくださいよ〜。僕の仕事が増えるんですから」
「ふふ、敦くんも立派になったねぇ〜」
太宰が“敦くん”と呼ぶ彼はその名の通り、中島敦。
皆、横浜に位置する武装探偵社に所属する異能力者。
「でも国木田くん!今回私はただでは終わらな」
「だから煩いと言って――――」
言葉が途切れた。
それは国木田だけではなく、敦も、太宰も、その場にいた全員だった。
「ぐっ……ひゅっ……っ゙」
「「太宰(さん)っっ!?」」
その場にいた全員が言葉を止め、全員が焦った。
無理もない。
先刻まで巫山戯ていた彼の首には、
“なにか”が巻き付いていた。
「おい太宰!どうした!?其れは何だ!?」
「太宰さん!大丈夫ですか!?」
「っゔ……ぐっ…がっ…」
太宰は苦しそうに首元に巻き付いた“其れ”を取ろうとする。
(……あれ……コレ…、見覚えが…)
「太宰さん動かないでください!今切りますから!」
敦が鏡花の小刀を持ち、焦った様子で太宰に云う。
「ゔっ………あ……っ゙し……くっ………」
今にも意識が飛びそうな声を上げる太宰は、
猪口令糖の様な色の瞳を向け、敦の名を呼んだ。
『違ぇだろ太宰』
「………っ゙…はっ…あ“…!?」
「どうした太宰!?何があった!?大丈夫か!」
国木田の声と共に、どこからともなく声が聞こえる。
『助けてじゃねぇ』
「な……つっ゙……んで…っ」
『―――やっと死ねて佳かった、だろ?』
「ちゅ、うや……が……っ!?」
もう聞くこともないと思っていた其の声に。
「ちゅ…や………」
共に窮地で、戦場で、組織内で背中を預けあった相棒の、その言葉に。
「た……すけっ……て……っ!」
縋りの声が漏れるのは、云うまでもないだろう。
『……………は?……誰だ手前』
「……っえ………?」
『まァいいか、おいヴェルレェヌ』
『判っているぞ弟よ』
『だっから俺ァ弟じゃねェ』
「っな…んで………っづ!?」
疑問の声が放たれるよりも先に、彼の躰はーーーー
闇に呑まれていって。
「やっとだ、なァ太宰」
『太宰さん!!返事してください!太宰さん!!』
強まっていく相棒の声と、薄れていく仲間の声。
そして―――――彼の意識は。
水底へと、沈んでいった。
(そうだ、コレ―――中也の、チョーカーだ……)
***
『待てよ✕✕』
―俺を置いて行くな
『手前は俺が殺すんだ』
―頼むから、独りにしないでくれ
『ぜってぇいつか殺してやるからなこンの✕✕✕!』
―手前が死ぬ其の時も傍に居させてくれよ
「首領……、否、太宰……俺は……どうすりゃ良かったんだ……?」
***
「っ……此処は……?」
「起きたか?太宰君」
「………ヴェルレェヌさん!?なんでここに」
彼が目を覚ますと、其処にはポール・ヴェルレェヌ―――
嘗て戦場にて相まみえた敵がいた。
「今はそんなことより、外を見ろ」
「……外……?」
ヴェルレェヌの指差す先に居たのは、
「……中也………なのか……?」
―――あの時に見た、獣の様に暴れ狂う、神の姿。
「或れは……荒覇吐だろう!?何故………」
太宰は変わり果てた相棒の姿に呆然とした。
「……判らないか?何故君が此処へ来れたのか、
あれは本当に君の知る中也なのか」
ポールは冷たい声色で太宰に問う。
「否……私の知る中也は、もっと瞳に輝きがあって、太陽に照らされた海の様な、輝く蒼い瞳で、もっと高潔で…」
何も考えずに口から溢れ出る、“相棒”が“相棒”ではないと云う言葉。
「……あんな、私よりも闇に満ちた中也じゃない」
「そうだろう。あれは君の知る中原中也ではない」
「…⁉」
(どういうことだ…!?)
太宰は持ち前の頭脳を生かし、必死に思考を巡らせる。
しかし無情にも、其の間に中也は街を破壊していく。
(兎に角、中也を止めないと…!)
「ヴェルレエヌさん、一寸行ってくるよ」
「気をつけて行け。死ぬなよ」
嗚呼、と太宰はヴェルレエヌの言葉を軽く受け流し、中也に向かって駆けていった。
✽✽✽
コノ出来事ノ3時間前_____
「本当にいいのか?」
「嗚呼。いいからさっさとやるぞ」
中也は光の灯らない瞳___只闇を映すだけの瞳をヴェルレエヌに冷たく向け、そう云った。
そして_____
「……“汝、陰鬱なる汚濁の許容よ”」
「“更めて我を目覚すことなかれ”」
中也の躰に、腕に、顔に。
血のような赤黒い光の紋章が浮かび上がる。
自我を失った彼は、重力子を操り翼のようにして。
月明かりの灯る、暗い群青色の空へと駆けていった。
一人、役目と共におかれたヴェルレエヌは空を駆ける中也を尻目に、呟く。
「俺の異能とお前の汚濁形態をぶつけて異能特異点を発生させ、時空を無理矢理繋げる……か」
“なあ。なんで俺が両手を封じて戦ってたか
教えてやろうか”
“…いつか負けそうな時が来りゃ、”
“そうすりゃ、ちっとは愛着が湧くと思ったんだ”
“この俺って人間にな”
(己に愛着を求めた者が、他者に執着し己の命を投げ出す)
(之は迚も____)
「……、見物だな」
そう云い、ヴェルレエヌは妖しく口を歪ませた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。