第22話

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2024/06/20 12:09




地下室の扉を開ければ、中は血液の独特な鉄の匂いで充満し、真ん中に置いてある、義母が縛り付けられている椅子からたれ流れている赤い水たまりが目に入った。

俺の目には鮮やかすぎて、匂いが強すぎて
目眩がして、クラクラ頭が回った



ガク
ッ……
あなた
おはようございます
あなた
今日は約束の日ですね




何時もの笑みで俺を見る彼女の手には、真っ赤に染まったナイフがきっちりと握られていた。




あなた
神社にもこんなところがあるんですねぇ
あなた
初めは私の家でやろうかと考えていましたが、丁度地下室があったので使わせてもらいました
あなた
お身体の方は?




怖かった。

ナイフを持ちながら、人を半殺しにしておきながら、にこやかに、まるで「当たり前」のように、軽やかに笑っているその顔が


でも、それ以上に





あなた
伏見さん?




「綺麗だった」

語彙も何も無いが、とても、とても。
「怖い」を上から塗りつぶしてしまうほど、その笑顔に見とれてしまった

まだ数回しか会っていないが、少しだけ、今だけ、彼女の顔が光り輝いているような気がして。


今まで見た中の誰よりも、どんなものよりも

とても綺麗に歪んでいた。





ガク
……
あなた
………まぁ、時間もありませんしね




俺が答えなかったからか、さっきの笑みとは違う、少ししゅんとしたような笑みになってしまった。


まずい、嫌われてしまったか?
さっきの笑みに戻って欲しい。
可愛らしく笑う姿をもう一度見たい。


そんな下心満載の考えが頭の中をグルグルと回る



あなた
本題に入りましょう
あなた
剣持さん
剣持
はいはい




召使いみたいだな……とか何とか言って、刀也さんが虚空の中にある何かを取り出す。

そういえば最近は全然虚空に入っていないな。
前に感じた不気味で不思議な虚空の感覚を思いだした



剣持
どうぞ



刀也さんが虚空から取り出したのはチョーカーだった

チョーカーと言っても、オシャレで付けるような素敵なものじゃない。なんというか、物々しい、得体の知れない器具が着いたものだ。




あなた
伏見ガクさん
ガク
っはィ!?



急にフルネームで呼ばれて肩が跳ね上がった
びっくりして少し声が裏返ってしまって、段々と顔が熱くなるのが分かる。
目の前のあなたさんもクスクスと楽しそうに笑っていた


ガク
………かわい……
剣持
しっかりしてください
ガク
イデッ!?



横の刀也さんにバシッと背中を叩かれ、ジンジンと背中が暑くなる。
さすが剣道部。腕力が半端なくて口から内蔵が出てくるかと思った。



あなた
…改めて、伏見ガクさん
あなた
今、貴方には2つの道があります
ガク
2つ…?
あなた
1つ。
貴方のお母様の手足を切り落とし、貴方なしでは生きられないよう「調教」する
ガク
っえ…




耳を疑った。

なんだって?調教??足を切り落とす???
そんな事本当にやったら警察行きだぞ?????

さすがに冗談、と思って顔を見ても、彼女は真面目な顔で話を続けていく。



あなた
2つ。
この「奴隷の首輪」をつけて、召使いやサンドバッグとして生かす。
ガク
奴隷の首輪、って……




「奴隷の首輪」

大昔、国の治安が地に落ちた「暗黒時代」で多く作られ、多く使われた「契約道具」の1つ。

それぞれの血を首輪に1滴垂らし、奴隷となる方に装着すると、もう片方の主人が亡くなる、または主人が許可を出すまで取れない首輪。

主人の意思に反すると、首輪から耐えられない激痛が走る化学物質が注入されるとか……



ガク
今は法律で使用禁止されてるんじゃ……
あなた
ええ。でも、私なら使うことが出来ます
ガク
どうやって、
あなた
私の家系をお忘れですか?





あなたの名字家、は「悪役の家系」

…なるほど





ガク
そういうのも家の力でできる、と
あなた
まぁ、そういう事です




さっきから静かな刀也さんの方に意識を向ける。

刀也さんはトコトコと首輪を持ったまま義母さんに近づいて、目隠しされてる義母さんの後ろにナイフと首輪を持ったまま無の顔で立った。

何方かを選べ、と、そう言いたいのだろう。




あなた
さぁ、こちらの用意は整いました
あなた
あとは貴方が決めるだけですよ





















        「伏見ガクさん」








ガク
………俺、は…

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