地下室の扉を開ければ、中は血液の独特な鉄の匂いで充満し、真ん中に置いてある、義母が縛り付けられている椅子からたれ流れている赤い水たまりが目に入った。
俺の目には鮮やかすぎて、匂いが強すぎて
目眩がして、クラクラ頭が回った
何時もの笑みで俺を見る彼女の手には、真っ赤に染まったナイフがきっちりと握られていた。
怖かった。
ナイフを持ちながら、人を半殺しにしておきながら、にこやかに、まるで「当たり前」のように、軽やかに笑っているその顔が
でも、それ以上に
「綺麗だった」
語彙も何も無いが、とても、とても。
「怖い」を上から塗りつぶしてしまうほど、その笑顔に見とれてしまった
まだ数回しか会っていないが、少しだけ、今だけ、彼女の顔が光り輝いているような気がして。
今まで見た中の誰よりも、どんなものよりも
とても綺麗に歪んでいた。
俺が答えなかったからか、さっきの笑みとは違う、少ししゅんとしたような笑みになってしまった。
まずい、嫌われてしまったか?
さっきの笑みに戻って欲しい。
可愛らしく笑う姿をもう一度見たい。
そんな下心満載の考えが頭の中をグルグルと回る
召使いみたいだな……とか何とか言って、刀也さんが虚空の中にある何かを取り出す。
そういえば最近は全然虚空に入っていないな。
前に感じた不気味で不思議な虚空の感覚を思いだした
刀也さんが虚空から取り出したのはチョーカーだった
チョーカーと言っても、オシャレで付けるような素敵なものじゃない。なんというか、物々しい、得体の知れない器具が着いたものだ。
急にフルネームで呼ばれて肩が跳ね上がった
びっくりして少し声が裏返ってしまって、段々と顔が熱くなるのが分かる。
目の前のあなたさんもクスクスと楽しそうに笑っていた
横の刀也さんにバシッと背中を叩かれ、ジンジンと背中が暑くなる。
さすが剣道部。腕力が半端なくて口から内蔵が出てくるかと思った。
耳を疑った。
なんだって?調教??足を切り落とす???
そんな事本当にやったら警察行きだぞ?????
さすがに冗談、と思って顔を見ても、彼女は真面目な顔で話を続けていく。
「奴隷の首輪」
大昔、国の治安が地に落ちた「暗黒時代」で多く作られ、多く使われた「契約道具」の1つ。
それぞれの血を首輪に1滴垂らし、奴隷となる方に装着すると、もう片方の主人が亡くなる、または主人が許可を出すまで取れない首輪。
主人の意思に反すると、首輪から耐えられない激痛が走る化学物質が注入されるとか……
あなたの名字家、は「悪役の家系」
…なるほど
さっきから静かな刀也さんの方に意識を向ける。
刀也さんはトコトコと首輪を持ったまま義母さんに近づいて、目隠しされてる義母さんの後ろにナイフと首輪を持ったまま無の顔で立った。
何方かを選べ、と、そう言いたいのだろう。
「伏見ガクさん」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。