第3話

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2020/04/20 07:02
気付けば『お父さん』の腕は切られ、


床へと落ちていた。


その『お父さん』の顔は、


暗くて見にくいけれど、


肩も、手も、全身が震えていた。


「…父さん、何やってるの?」


「ヴ、ヴゥ……!」


その累の声にビクリと驚き、更に震え始めた。


『る、累、あ、あの…』


「あなた!怪我は?どこも触られてないよね?」
『え?あ、え、えぇ…』


「…そ、良かった。」


先程の冷酷かつ冷たい顔からは一変し、


私の無事を確認した途端、


笑顔へと変わった。
──────怖い。


ただその感情だけが私の心に蓋をする。


何故だろう、私を生かし、好いてくれている累に。
この気持ちの名前は何なのだろうか。
「あなた…?」


『あ、ご、ごめんなさい、どうかしたの?』
「…いや、部屋に戻ろう。」


「あなたのことだから、家の中を見てたんでしょ?」
『…!…何で分かるの?』
「だから何となくだよ、さぁ、部屋に戻ろ?」
『そうね…。』


そして、元居た場所へと戻る。


『…あ!そういえば…』


「父さんのこと?」


『腕…どうなっちゃうの?』
「ふふっ…」


『な、何がおかしいのよ?』
「可笑しくないよ。あなたは優しいね。」
『…?』


『あ、ねぇ、累。』
「何?」


『どこへ行っていたの…って聞いても良いの?』


「……あなたは知らなくて良いよ。」



『…そ、う…』


累の事を〝好き〟ではない。


ただ、鬼だから、という理由で、


境界線を引かれた様なのが、少し胸を痛めた。
『……累、』


『いつ、私を殺してくれる?』


「!?」


「勝手に死んだら、許さないよ?」


『それは、私の勝手よ。』


『家族にしてくれるとは言ったわ。』


『でも、私は…』


「別に、部屋に糸で縛り付けて、壁に張り付けにしても良いんだ。」


「あなたがそれでどこにも行かないのなら。」


『…っ…』


「無理矢理、僕の血を飲ませて鬼にしたって良い。」


「でも、今、僕はあなたが好きなんだ。」


「だから、大切にしたい。僕の事をあなたから求めてくる日まで。」
『お父さん』と同じ、


暗闇で光る目は、鋭く私を見詰めていた。


だけど、どこか優しく、愛らしく私を見ていた。


その言葉に、きっと偽りがないことも。


分かっている、でも、
『そんな日が、来るとは思えないわ。』


気付いたら、口にしていた。


累はその言葉を聞いた瞬間、


目を大きく開き、私へと手を振り上げた。




──────あぁ、怒らせてしまった。

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