気付けば『お父さん』の腕は切られ、
床へと落ちていた。
その『お父さん』の顔は、
暗くて見にくいけれど、
肩も、手も、全身が震えていた。
「…父さん、何やってるの?」
「ヴ、ヴゥ……!」
その累の声にビクリと驚き、更に震え始めた。
『る、累、あ、あの…』
「あなた!怪我は?どこも触られてないよね?」
『え?あ、え、えぇ…』
「…そ、良かった。」
先程の冷酷かつ冷たい顔からは一変し、
私の無事を確認した途端、
笑顔へと変わった。
──────怖い。
ただその感情だけが私の心に蓋をする。
何故だろう、私を生かし、好いてくれている累に。
この気持ちの名前は何なのだろうか。
「あなた…?」
『あ、ご、ごめんなさい、どうかしたの?』
「…いや、部屋に戻ろう。」
「あなたのことだから、家の中を見てたんでしょ?」
『…!…何で分かるの?』
「だから何となくだよ、さぁ、部屋に戻ろ?」
『そうね…。』
そして、元居た場所へと戻る。
『…あ!そういえば…』
「父さんのこと?」
『腕…どうなっちゃうの?』
「ふふっ…」
『な、何がおかしいのよ?』
「可笑しくないよ。あなたは優しいね。」
『…?』
『あ、ねぇ、累。』
「何?」
『どこへ行っていたの…って聞いても良いの?』
「……あなたは知らなくて良いよ。」
『…そ、う…』
累の事を〝好き〟ではない。
ただ、鬼だから、という理由で、
境界線を引かれた様なのが、少し胸を痛めた。
『……累、』
『いつ、私を殺してくれる?』
「!?」
「勝手に死んだら、許さないよ?」
『それは、私の勝手よ。』
『家族にしてくれるとは言ったわ。』
『でも、私は…』
「別に、部屋に糸で縛り付けて、壁に張り付けにしても良いんだ。」
「あなたがそれでどこにも行かないのなら。」
『…っ…』
「無理矢理、僕の血を飲ませて鬼にしたって良い。」
「でも、今、僕はあなたが好きなんだ。」
「だから、大切にしたい。僕の事をあなたから求めてくる日まで。」
『お父さん』と同じ、
暗闇で光る目は、鋭く私を見詰めていた。
だけど、どこか優しく、愛らしく私を見ていた。
その言葉に、きっと偽りがないことも。
分かっている、でも、
『そんな日が、来るとは思えないわ。』
気付いたら、口にしていた。
累はその言葉を聞いた瞬間、
目を大きく開き、私へと手を振り上げた。
──────あぁ、怒らせてしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。