まふまふside
勢いよく開いた扉の前には、はぁはぁと息を切らしたあなたが立っていた。
萌子さんも、驚いたのか
僕から顔を離して扉の方をポカンとした顔で見ている。
そんな萌子さんもお構いなしにあなたは、驚いて座り込んでいる僕の前に庇うように立った。
そして、
ペシッ
何も言わずに萌子さんの頬をビンタした。
萌子さんがキッとあなたを睨む。
あなたの目からポロポロと涙が零れ落ちる。
今まで聞いたことの無いような、
弱々しくも力強い声が生徒会室に響く。
きっと怖いはずなのに、それなのに立ち向かっているあなたの姿に胸の奥がじんとなる。
あなたが下を向く。
僕の目の前にあるあなたの手は、
ぎゅっと拳を握っている。
そらるさんが二人の間に割って入る。
僕も、すかさず割って入る。
立ち上がってあなたの事を強く抱き締める。
震えた声であなたが言う。
………あなたの体、震えてる………
やっぱり、怖かったんだ…。
………今度は、僕が萌子さんに立ち向かう番だよね。
そう思って、あなたを庇うように立つ。
萌子さんは一人でブツブツと何かを言っている。
はめられた?
意味が分からない。
そんな嘘が通じると思ってるのか?
不安げな瞳で萌子さんはそらるさんにすがり付く。
………でも、そらるさんはそんな事どうでもいいみたいで、萌子さんに一つの資料を突きつけた。
思い、出した。
萌子さん、どこかで見たことあると思ったら………小学校の時の…………
嫌な記憶が駆け巡る。
バケツで水をかけられたこと、
悪口を言われたこと、
蹴られたこと、殴られたこと………
しゃがみこんで耳を塞ぐ。
駄目だ。幻聴が聞こえる。
あの時の蹴られた感覚、
言われた悪口、
全部全部蘇ってくる。
怖い。怖いよ……。
するとあなたは僕の隣に来て、
そう言って、背中をさすってくれた。
………あぁ、そうだ。
小学校の時も、こうしてあなたが背中をさすってくれたっけ。
そらるさんと二人で萌子に立ち向かって、虐めを止めてくれたっけ。
あの時から、僕………
僕が落ち着く暇もなく、
萌子の猫撫で声がまた生徒会室に響く。
萌子の声が裏返る。
………随分と焦っているみたいだ。
そう言うと同時に萌子さんの僕を見る目付きが変わった。
『絶対覚えてるとか言うんじゃねぇぞ』って訴えかけてるような、怖い目付き………
怖さを打ち消してしっかりとそう言う。
あなただって怖いはずなのに、僕のために勇気を出してくれたんだ。
……僕も、勇気を出さなきゃ。
そう言って萌子さんはあなたの胸ぐらを掴んだ。
そう言った萌子さんの手には、
カッターが握られていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!