急に恐ろしい単語があの笑理から放たれた。
恐らく詳しいことも教えてくれないだろう。
ただ、自分が落ちることだけはまっぴらだ。
毎シーズン"学校"はやるようだが、時間は無駄にしたくない。
ついに迎えた準備期間最終日。
そして、選別の日。
重苦しい空気の中、紅太を見かけた。
目が合い、近づいてきた。
改めて話を聞くと、あの時の紅太君は能力のせいで差別されていた。その苦しみが折り重なり、能力が暴発。
能力により妖気を血に変換できる体質で、失血死もできない。ただ血が抜けていく感覚を味わうことになり、我を忘れていたらしい。
それにまだ子供だ。自死する勇気も出なかったようで、ただひたすらに生の苦しみを感じていた。
そのせいで殺してくれる存在を探すが、能力の暴走で死ななかったようだ。
全てを失った少年に伊織が言えることはこれしかなかった。
悲惨な過去を送った幼い少年に今頼れるものがあるとすれば、命の恩人であり顔見知りである僕しかいないのだ。
そのため伊織はこのとき、紅太に兄としての感情のようなものが湧き上がっていた。
しばらく歩いたところで、大きな建物が見えた。
ここが樹海だと忘れさせるほど新そうで、少し荒れていた。
そうして醜い争いが幕を開いた。
建物は5階あり、伊織とニャルは3階の階段前の部屋からスタートになった。
そんなことを話していた時だ。
「ドゴォ…」
という轟音が上から響いてきた。
1人ではまともに戦えないため、伊織は急ぎニャルを追った。
次の階…4階に登った瞬間、伊織は驚いた。
そこは天井が崩れ落ちて5階と繋がっていた。
さらにそこには轟とかいうやつと、紅太がいた。
伊織が轟へ怒りの矛を向けたのは、紅太の上にまたがり攻撃をしようとしていたからだ。
いや、既に何度か攻撃を受けているようだ。
紅太の肌は火傷し、爛れかけていた。
恐らくこのまま至近距離で爆破攻撃を続けられたら3回もせずに紅太は絶命する。
珍しくニャルが感情的になっていた。
「以心伝心」で感情を読んだところ、愚問だったようだ。
『恩人の友を傷つけて許されるとは思うなよ…』
伊織は覚悟を決めた。
伊織がそう唱えた瞬間、ニャルは細く、長く変形した。
あの戦いの後、隆二はそう言った。
変形したニャルは2mはあろう大太刀になった。
轟はそんなことを言ったが、内心は異なっていた。
実は接近前提というのはブラフで、触れた小石などを飛ばして爆ぜさせることもできるのだ。
轟は小石を拾い、自身の妖気を込めた。
それを見たニャルは伊織に耳打ちした。
小石が異常な威圧感を孕んだ。
それが生む感情はなんとも形容し難く、興奮にすら似た恐怖であった。
咄嗟に紅太から離れ、体勢を整えた。
伊織は以心伝心を使い、新たな発明をニャルの脳に直接伝えた。
ニャルはそれを理解し、新たな形態へと変態した。
その形態は他の形態とは異質で、「何に代えても護る」という固い信念のもと作られる。
つまり、他の形態と比べて最も「愛」という感情が込められているのだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。