冬も中ほど。
山肌を吹き抜ける風は
骨に染みるほど冷たいのに、
どこか僕の心は穏やかだった。
……いや、違う。
穏やか、ではない。
きっとこれは、
受け入れた者だけが知る静けさ。
もう先が長くないと、
僕もジョングクも、わかっていた。
数日前、
ふたりで火鉢を囲んでいたとき、
ジョングクが静かに言った。
僕は、うなずいた。
ああ、
この人も同じ場所に
いるんだなって。
***
その日から僕たちは、
“準備”を始めた。
子供たちと過ごす時間を
削ることがないように、
深夜にひっそりと動く。
最初に用意したのは、
妖術器__灯籠。
二つ、静かに光を宿せるものを。
僕たちの妖力を、
それぞれの灯籠に封じることにした。
子供たちが、
これからどんな未来に
歩いていっても、
僕たちの“灯り”が
彼らの道を照らし続けるように。
妖力を注ぎ込むには、
時間がかかった。
僕もジョングクも、
すでに“流れ出す力”を
無理やり引き留めるような
状態だったから。
けれど、それでも……
残せるだけの力を、すべて込めた。
ジョングクが灯籠を布で
丁寧に包みながら、低く言った。
うん。
そうしてもらおう。
これ以上は、残せないから。
これが、僕たちの“遺言”に
なるんだろうなと思った。
***
準備の合間、ある朝。
今日は晴れて、
街の屋根に白く積もった雪が
光を跳ね返していた。
僕がそう言うと、
子供たちはぱっと顔を輝かせた。
テリンもジョンウンも、
しっかりとした
青年の顔になっていたけれど、
このときだけは、
あの頃と同じ顔を見せてくれた。
リンファは、まだ無邪気なままで、
僕の手に自分の手を重ねて
「行く!」とはしゃいだ。
街に出た僕たちは、
少しだけ“贅沢”をした。
いや、贅沢じゃない。
ただの、親心。
三人に、それぞれ韓服を選んだ。
普段使いではなく、
人生でたった一度の
大切な日に着るような、
それぞれの色に似合う、晴れ着。
ジョンウンが
眉を上げて聞いたとき、
僕は笑ってごまかした。
それから、
テリンには深紅の玉飾りをあしらった髪飾り。
リンファには淡い桃色の花が編まれたものを。
ジョンウンには、黒曜石に似た重厚な耳飾りを。
選びながら、
僕はこっそりと願った。
“この子たちの未来が、
穏やかで美しくありますように。”
“僕たちがいなくなったあとも、
きちんと自分の足で立っていけますように。”
それから、何度も何度も、
「楽しかったね」
「また来ようね」と言いながら、
心の奥では「これが最後」と、
繰り返していた。
街の灯りが
夕暮れに溶けていく中、
手を繋いで帰るその姿を、
僕は一瞬だけ胸に刻んだ。
“……ありがとう”
声には出さずに、
でもしっかりと心で伝えた。
生まれてきてくれて、
僕たちの子でいてくれて、
本当にありがとう。
***
そして、家に戻った夜。
ジョングクが、
背中からそっと僕を抱きしめた。
僕は、ふっと笑って首を振る。
ジョングクの手が、
少し震えていた。
けれど、僕の中にある不安は、
彼の腕の中で、すぐに消えた。
そして、僕たちは……
“最期の旅”へと、一歩、
歩みを進める準備を始めた。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。