第54話

伍拾肆話 見透かされた背中
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2025/09/02 12:00 更新








秋の風が気持ちよく吹いていた。

この季節の空気は、

どこか澄んでいて、

胸の奥まで通り抜けていく気がする。



杋圭
杋圭
 …テリン、姿勢が崩れてる。 
 もっと腰を落として。

然竣
然竣
 ジョンウン、足さばきが雑。
 それじゃ次の一手に繋がらない。 




稽古場の真ん中で、

ヨンジュンとボムギュが

真剣な表情で指導している。

双子もそれに応えるように、

汗を額ににじませながら

集中していた。



僕は、その様子を

稽古場の隅で見守っていた。

隣では、ジョングクが

リンファを膝に乗せ、

風を受けながら静かに

子供たちを見つめている。



凛花
凛花
 お兄さま、お姉さま、
 かっこいい〜〜っ 




リンファが手を

叩きながら目を輝かせる。



柾國
柾國
 ほんとだな 




ジョングクが小さく笑って、

リンファの髪を撫でた。



そんな、なんでもない日常の一コマ。

けれど僕は、

背中に張り付くような

違和感を拭えなかった。



ヨンジュンとボムギュが、

こちらを“時折”、見ていた。

それは視線というより__

探るような、見透かすような眼差し。



泰亨
泰亨
 ……ジョングク 

柾國
柾國
 ……わかってる 




僕の小さな声に、

彼もまた低く短く返す。





***





稽古がひと段落した頃、

ヨンジュンが水の入った徳利を

持ってこちらへ歩いてきた。

その後ろには、

ボムギュの姿もあった。



然竣
然竣
 ……兄さん、顔色悪いよ。
 ずっと前から思ってたけど。 




開口一番、

ヨンジュンは迷いなく言った。



然竣
然竣
 それに…
 この前、俺が黎命城に行ったとき、 
 資料室で倒れかけてたろ?
  覚えてない?

泰亨
泰亨
 …そんなこと、あったっけ 




僕は笑って

ごまかそうとしたけれど、

視線を逸らした瞬間、

自分の動揺を悟られた。



杋圭
杋圭
 ジョングク兄さんも……
 最近、無理してるように見える。 

杋圭
杋圭
 政務中、腕を押さえてたり、  
 目が合ってもすぐ逸らしたり…
 なんか、僕たちから
 “隠してる”よね?




言葉が喉元で詰まる。

僕は、返せなかった。



然竣
然竣
 なぁ、お願いだから……言ってよ 




ヨンジュンが、

静かに目を細めた。



杋圭
杋圭
 僕たち、何も知らされずに  
 兄さんたちが潰れていくの…
 見たくないよ。




ボムギュの声も震えていた。



杋圭
杋圭
 どうして……
 僕たちには頼ってくれないの? 




ジョングクが、

隣で拳をぎゅっと

握りしめる音がした。

でも、それでも何も言わなかった。



僕も、言えなかった。

口を開いたら、涙がこぼれそうで。



泰亨
泰亨
 ……大丈夫だから 




それだけ言うのが、

やっとだった。



然竣
然竣
 …それ、もう何回
 聞いたか分かんない。 




ヨンジュンが俯いて、

小さく吐き捨てる。



然竣
然竣
 …大丈夫って、
 言わないでよ。 
 そんな目してるくせに。 




ヨンジュンの声が、

泣きそうに震えていた。

僕は、拳を握りながら、

ただ堪えていた。



弟たちにさえ、

真実を告げることができない

自分の弱さが、悔しかった。



けれど、それでも__

まだ、希望を信じたかった。





***





稽古が終わったあとも、

ヨンジュンとボムギュは

僕たちの傍を離れようとしなかった。

言葉には出さないが、

何かあればすぐに動けるように___

そんな姿勢だった。



その優しさが、胸に痛い。

けれど、それ以上に嬉しかった。



僕はただ、小さく、

心の中でつぶやいた。



“ごめん、でも……ありがとう”



___そして、少しずつ

“その時”は近づいていた。






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