第60話

陸拾話 牙に咲く花〈最終回〉
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2025/09/08 12:00 更新






静寂___。



黎命城の主殿にて

開かれた四神獣会議。

話題は、春の祭の調整や、

各国の妖異の報告など、

いつもと変わらぬ議題が並ぶ。



けれど、俺はずっと胸の奥に

刺さるような違和感を覚えていた。



__ふたりの気配が、ない。



いや、それだけではない。

空気からふたりの

“存在そのもの”が、

すうっと消えていった。



南俊
南俊
 …ジョングク……テヒョン… 




ふと、手に持っていた

巻物を閉じる。



それを見ていたホソクが、

少し心配そうに尋ねる。



號錫
號錫
 ナムジュン様、
 どうなさいましたか? 




俺は、目を伏せたまま、

そっと息を吐いた。



そして静かに、

けれどはっきりと答える。



南俊
南俊
 …ふたりの、気配が……
 なくなってしまった。  




その瞬間、

室内の空気が沈んだ。



誰もが気づいたのだろう。

“ふたり”が、戻ってこない場所へ

行ってしまったことを。



碩珍
碩珍
 … そうか…… 




後ろから、穏やかな声が響いた。

大神・ソクジン様だった。



彼はいつもと変わらぬ

落ち着いた顔で立っていたが、

その目元は赤く潤んでいた。



碩珍
碩珍
 ……ふたりが、
 自らの意志で選んだ道だ。 
 ……尊い選択だった。



***




その後、ヨンジュンと

ボムギュが呼び出される。



ふたりの目には、

すでに不安が浮かんでいた。



然竣
然竣
 ……やっぱり、ふたりは… 




ヨンジュンが

小さく震える声で言う。



ボムギュも唇を噛み、

言葉にならない嗚咽を堪えていた。



ナムジュンは頷き、

ゆっくりと語り始める。



南俊
南俊
 ……彼らは、
 自ら“永遠の場所”を選んだ。 
 灯籠に力を遺し、
 君たちに___
 未来に託したのだ。 




ふたりの弟たちは、

ついに堪えきれず、

肩を震わせて涙を流した。



杋圭
杋圭
 なんで……っ、もっと、
 早く気づいていれば……! 

然竣
然竣
 違う、ボムギュ 




ヨンジュンが

涙を拭いながら、

強く言った。



然竣
然竣
 __兄さんたちは、
 ちゃんと“愛されてた”んだよ。 
 僕たちに、子供たちに、
 そして……この国に。





***





その後、ナムジュンは静かに

ジョンウンを呼び寄せた。

小さな灯籠をふたつ、手に持ち。



柾音
柾音
 これは……? 




ジョンウンが訊くと、

ナムジュンは微笑むように語った。



南俊
南俊
 君の父様と母様が、
 最後に君たちに遺したものだ。
 ふたりの“力”と“想い”が
 詰まっている。
 ……それは決して消えない光だ。 




ジョンウンは震えながら、

両手で灯籠を抱きしめた。



柾音
柾音
 …お父様……お母様… 




嗚咽が、抑えきれなかった。

涙が頬をつたい、

灯籠にひとしずく落ちると、

それがまるで光を灯したかのように、

淡く灯った。



ジョンウンはただ、

ただその灯籠を胸に抱いて泣いた。





***





ふたりの遺体は見つからなかった。



けれど黎命城では盛大に、

静かに、ふたりの葬儀が執り行われた。



神に最も近い者として、

そしてこの地を

守り続けた四神獣として___



誰もがふたりを誇りに思い、

心から愛し、涙を捧げた。





***





風が吹いていた。



とある山の奥、

時の流れから切り離されたような、

静かな森の中。



春の息吹がそっと吹きこみ、

小さな花がひとつ、

ふたつと咲き始めていた。



その真ん中に___

ふたつの人影が、

寄り添うように座っていた。



もう、息をしてはいない。



けれど、

その顔はどこまでも穏やかで。

その手は、互いの指を

しっかりと結んでいた。



やがて、ふたりの足元から___

やさしく、

けれど力強く、白い花が咲いた。



その花は、

牙を思わせる鋭さと、

美しさを兼ね備え、

どこまでも清らかに、

天へと向かって咲き誇っていた。



誰が名付けたとも知れぬ、

その花の名は___

 

“牙に咲く花”。



幾千年経とうとも、

その花が咲く限り、

ふたりの物語は、

決して消えることはない。














end.

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