静寂___。
黎命城の主殿にて
開かれた四神獣会議。
話題は、春の祭の調整や、
各国の妖異の報告など、
いつもと変わらぬ議題が並ぶ。
けれど、俺はずっと胸の奥に
刺さるような違和感を覚えていた。
__ふたりの気配が、ない。
いや、それだけではない。
空気からふたりの
“存在そのもの”が、
すうっと消えていった。
ふと、手に持っていた
巻物を閉じる。
それを見ていたホソクが、
少し心配そうに尋ねる。
俺は、目を伏せたまま、
そっと息を吐いた。
そして静かに、
けれどはっきりと答える。
その瞬間、
室内の空気が沈んだ。
誰もが気づいたのだろう。
“ふたり”が、戻ってこない場所へ
行ってしまったことを。
後ろから、穏やかな声が響いた。
大神・ソクジン様だった。
彼はいつもと変わらぬ
落ち着いた顔で立っていたが、
その目元は赤く潤んでいた。
***
その後、ヨンジュンと
ボムギュが呼び出される。
ふたりの目には、
すでに不安が浮かんでいた。
ヨンジュンが
小さく震える声で言う。
ボムギュも唇を噛み、
言葉にならない嗚咽を堪えていた。
ナムジュンは頷き、
ゆっくりと語り始める。
ふたりの弟たちは、
ついに堪えきれず、
肩を震わせて涙を流した。
ヨンジュンが
涙を拭いながら、
強く言った。
***
その後、ナムジュンは静かに
ジョンウンを呼び寄せた。
小さな灯籠をふたつ、手に持ち。
ジョンウンが訊くと、
ナムジュンは微笑むように語った。
ジョンウンは震えながら、
両手で灯籠を抱きしめた。
嗚咽が、抑えきれなかった。
涙が頬をつたい、
灯籠にひとしずく落ちると、
それがまるで光を灯したかのように、
淡く灯った。
ジョンウンはただ、
ただその灯籠を胸に抱いて泣いた。
***
ふたりの遺体は見つからなかった。
けれど黎命城では盛大に、
静かに、ふたりの葬儀が執り行われた。
神に最も近い者として、
そしてこの地を
守り続けた四神獣として___
誰もがふたりを誇りに思い、
心から愛し、涙を捧げた。
***
風が吹いていた。
とある山の奥、
時の流れから切り離されたような、
静かな森の中。
春の息吹がそっと吹きこみ、
小さな花がひとつ、
ふたつと咲き始めていた。
その真ん中に___
ふたつの人影が、
寄り添うように座っていた。
もう、息をしてはいない。
けれど、
その顔はどこまでも穏やかで。
その手は、互いの指を
しっかりと結んでいた。
やがて、ふたりの足元から___
やさしく、
けれど力強く、白い花が咲いた。
その花は、
牙を思わせる鋭さと、
美しさを兼ね備え、
どこまでも清らかに、
天へと向かって咲き誇っていた。
誰が名付けたとも知れぬ、
その花の名は___
“牙に咲く花”。
幾千年経とうとも、
その花が咲く限り、
ふたりの物語は、
決して消えることはない。
end.



















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。