風が、やさしかった。
あの庵から、
ふたりで手を取り合って歩いた道。
距離にすればたった数里だが、
身体の痛みと重みのせいで、
ずっとずっと長く感じた。
それでも、テヒョンは
俺の手を離さなかった。
いや、離させなかった。
視界の先、
雲を割るようにして
立っていたのは___
苔むした、
静かに佇む一本の石碑だった。
その足元には、
淡い花が風に揺れていて。
この場所だけが、
時間の流れからそっと
外れているようだった。
“永遠の場所”。
俺たちが書物で読んだ、
最期の地。
妖力が尽きるその瞬間まで、
生を宿し、魂を留める場所。
俺はテヒョンの肩を抱き、
ふたりでゆっくりと石碑に近づく。
ひんやりとした石の表面に、
手を当てると、
そこからふわりと
妖気が溶けていくようだった。
石碑の中心に、
指先をそっと当てる。
その瞬間、俺たちの身体から、
白い光の粒が流れ出していった。
それはまるで、
桜の花びらが逆さに
舞い落ちていくように。
あたたかくて、静かで、
どこか懐かしい___
そんな感覚だった。
テヒョンが俺の手をぎゅっと握る。
その細くなった指先に、
もう力はほとんど残っていなかった。
テヒョンが囁くように言った。
俺は、頷いた。
テヒョンが、ふっと笑った。
透き通るような、
その笑顔を、俺は一生分、
焼きつけるように見つめた。
言葉が、風に溶ける。
俺の中からも、
力が抜けていくのが分かった。
手足の感覚が、
少しずつ遠のいていく。
でも、それが怖いとは思わなかった。
ただ、隣にテヒョンがいてくれることが___
最期まで、隣にいられることが___
何よりの救いだった。
ふたりで寄り添うようにして座り込み、
背中を石碑に預ける。
瞼の奥が、
温かい光で満たされていく。
遠くから、鳥の鳴き声が聞こえた。
まるで、春を告げるような、
その声に包まれて___
俺たちは、ふたりだけの“永遠”に、
静かに溶け込んでいった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。