小さな庵の軒先に、
霜がうっすらと降りていた。
あたりは静まり返っていて、
聞こえるのは薪のはぜる音と、
鳥の羽ばたきくらい。
夜が明けて間もないはずなのに、
僕の身体はずいぶん重たくて、
目を開けるのにも
少しだけ時間がかかった。
か細く呼ぶと、
僕のそばで寝ずの番をしていた
ジョングクが顔を上げた。
夜通し僕の手を握っていたのか、
その手はぬくもりを帯びたままで。
ジョングクがそっと器を傾け、
僕の唇に水を流し込む。
冷たいはずなのに、
それは優しい味がした。
ジョングクの手に引かれながら、
庵の外へと出る。
ほんの数歩の距離なのに、
息が切れてしまって、
思わず彼の腕にしがみついた。
寄りかかる僕を支えながら、
ジョングクが空を仰ぐ。
灰色だった空は
少しずつ色を変えはじめ、
まばゆいほどの
朝の光が差し込んできた。
遠くで、小さな春の花が
ひっそりと咲いていた。
ふたりで腰を下ろして、
僕は彼の肩にそっともたれた。
ああ、このぬくもりを、忘れたくない。
この腕、この声、このやさしさ。
どれも僕の命より、
大事だった。
僕の手を、
ジョングクがぎゅっと強く握る。
それが、とてもあたたかくて、
思わず涙がこぼれそうになった。
でも、泣かない。
泣いたら、彼が悲しむから。
僕は、笑っていたい。
最後まで、笑っていたい。
火が落ち着き、
空が深く青く
染まりはじめたころ。
ふたりの世界は、
ただ穏やかに、
時間を刻んでいた。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!