吐く息が白い。
重く、鈍く、
胸の奥で疼くような痛みが
広がっている。
それでも、僕は足を前に出す。
誰にでもない、自分への呟きだった。
風が冷たく頬を撫でていく。
遠くに見える山々は、
まるで夢の中のように静かで、
僕を呼んでいるようだった。
隣を歩くジョングクが、
僕の肩に手を添えた。
僕はふっと笑った。
その声には、
どこか涙が混ざっていた。
ジョングクが、
何も言わずに
僕の手をぎゅっと握った。
その温もりが、
凍えるような
身体の芯まで届いてくる。
もう、ほとんど妖力が
残っていないのがわかる。
僕の内に満ちていた力は、少しずつ、
まるで砂のように零れていっている。
足元がふらつく。
視界が揺れて、
何度も意識が遠のきそうになる。
でも、倒れてはいけない。
ここで崩れたら、
もう、辿り着けない。
___“永遠の場所”。
古い書に記されていた、
神々さえ静かに眠る、
穏やかな魂の帰る地。
僕とジョングクが、
この身の最期を迎える場所。
子供たちにも、弟たちにも、
仲間たちにも告げず、
ふたりで選んだ、終わりの地。
ジョングクの声が、
そっと肩越しに届く。
僕はこくりと頷いて、
肩を借りたまま、一歩進む。
かすかに雪が舞い、
風が梢を揺らしていた。
山道を抜け、
小さな祠のような
岩陰に着いたとき、
ジョングクが荷を下ろし、
仮の拠点を整え始めた。
僕は頷き、
岩に寄りかかるように腰を下ろした。
呼吸が浅く、胸の奥が苦しい。
けれど、ここで止まってはいけない。
あと少し、あともう少しだけ。
そう言って、
ジョングクが僕の手を取った。
その手は、少し震えていた。
本当は、僕以上に不安で、
恐れているのかもしれない。
でも、彼は僕にそれを
見せようとしない。
ふたりで笑った。
ほんの少しだけ、心が温かくなる。
けれどそのあと、
僕の身体がびくりと震えた。
突き上げるような吐き気に、
思わず口を押える。
ジョングクが、
すぐに背をさすってくれた。
僕は、何度か浅く呼吸して、
ようやく落ち着いた。
呟いた声が、
風に紛れて消えていった。
___あとどれだけ、
この足で歩けるだろう。
___あとどれだけ、
この声で、君の名前を呼べるだろう。
ジョングクが、
小さな火を起こして、
僕のそばに置いてくれた。
小さな火が、
パチパチと音を立てて燃えていた。
冷たい風の中で、
ふたりの影を揺らしながら。
その夜は、言葉を交わすよりも、
お互いの手を温め合い、眠りについた。
夢の中でも、
僕は君の手を、離さなかった。
___残された時間は、あとわずか。
けれどそれでも、
僕たちは最後まで、
ふたりで並んで歩いていく。
どこまでも、
永遠の静寂に、
辿り着くその瞬間まで。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!