途方に暮れた私は、
渋々ひとりで暗い森の中を進む。
カラスの鳴き声、草木の揺れる音。
そのどれもが不気味で、
進む足がカタカタと震えだす。
しばらくして結構歩いたのに
ゴールが見えてこないのに気づき、
私は足を止める。
すぐに道を引き返そうとしたのだけれど、
四方八方木々に囲まれていて、
どこから来たのかわからなくなる。
(どうしよう……)
祈るように思い浮かべたのは、悠貴の顔だった。
そのとき、「あなたーっ」と誰かに呼ばれた気がした。
弾かれるように顔を上げた私は、耳を澄ませる。
(この声、悠貴だ!)
私は大きく息を吸って、悠貴に届くように叫ぶ。
するとすぐに足音が近づいてきて、
近くの茂みが揺れたと思ったら──。
勢いよく悠貴が飛び出してきて、
私を抱きしめると安堵の息をつく。
強く強く抱きしめてくれる悠貴の胸に、
私は頬をすり寄せる。
私たちは手を繋いで、
元のルートを目指して歩き出す。
もう一度、お礼を言おうとしたとき、
ズルッと足が滑る。
(──えっ……)
身体が崖のように急な斜面のほうへ傾いて、
宙に投げ出された。
切羽詰まった悠貴の声が耳に届く。
(落ちる……!)
そんな絶望が胸を過ったとき──。
幸いにも悠貴と繋いでいた手が私の命綱になった。
でも、昨日は雨が降って足場がぬかるんでいて、
私を支える悠貴も急な斜面のほうへずるずると
少しずつ引きずられている。
(このままじゃ、ふたりで落ちちゃう)
(悠貴まで、巻き込むわけにはいかないから──)
私はパッと悠貴の手を振り解く。
その瞬間、悠貴の目が大きく見開かれる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。