第43話

42
25
2024/05/15 18:37
涙がやっと止まったオリビアは、すっきりした表情をしていた。

「もうこの話はやめましょう。この先も。
もうお互いを許したから」

「そうだな」

大きく深呼吸したオリビアは、夜空を見上げた。

「こんな、星が降るようなきれいな夜空の日は…いつもあなたに会いたくなった」

「その日だけか?…俺はいつでも会いたかった」

「話を聞かない誰かさんのためにまた星座を教えたくなるから」

「一つだけ覚えてただろ。この前話した」

「そうだったわね。あなたがエドワードだとまだ知らなかったから、ライアンと比べたわ。

この子は一つでも星座を覚えているのに、エドなんて覚えようとしない。この子は偉いわ……ってね」

「今はどう思う」

「え?」

「エドワードとライアンを比べて。
……子供でがっかりしたか。
きっと、この姿で再開したのも、俺への罰なんだろうな」

ライアンをじっと見つめて、ん〜…と考えたように首を傾げた。

「特になんとも思わなかったけど。
子供でも大人でもエドワードなんだし…

それに、早く大人になるんでしょ?」

ピンクの小さな唇がにこりと笑うと、ライアンは込み上げてくる胸の高鳴りに気づいた。

オリビアのそばへ一歩近づけば、目の前には顔がある。

「だめよ…?」

「なにが」

「目と唇を交互に見るの、あなたのキスしたい時の癖」

「しないけど…子供でもなんとも思わないんだろ」

ライアンはムスっとして、オリビアから離れた。

「あなたが大人になるまで待ってあげる。
それまではだめ」

「………」

眉根を寄せて真剣な顔をし、肩を落としたライアン。

12歳のライアンがエドワードでも本当になんとも思ってなかった。

でも、今になってオリビアは内心思っていた。
ライアンが大人だったら、あの頃のように強く抱きしめて、キスをしてもらえただろうと。

エドワードを待っている時間に比べたら、
どうってことない。

二人のこれからの人生がどんな結末になるかわからないけど、悲劇になるとしても一緒にいたい。
そう思った。
次の日、お昼前には屋敷を出る予定だった。

部屋に使用人がやって来て、荷物を運ぶ。

屋敷を出ると、使用人達が来た時と同じように並んで見送りをしてくれていた。

「オリビア…嬢」

振り返ると、そこにはライアンとノーマンがいた。

「オリビア嬢!寂しくなりますね」

「えぇ…もっとお話したかったです」

オリビアがノーマンに笑いかけると、ノーマンは照れたように少し頬が赤くなった。

それを見たライアンがノーマンを一瞬睨みつける。

「1日だけでもいいからもう少しいればいいのに」

「寂しい?」

「………」

ライアンは素直になれないのか、口を尖らせた。

「わたしが…あなたに一度も言えなかった言葉よ。

寂しいわ」

前世では、戦場に行くエドワードに言いたくても言えない言葉だった。

やっと言えた満足感でオリビアは笑顔になる。

「全然寂しそうじゃないが?」

「ふふっ」

「しばらく、俺とは会うことはないな。
……レオンとは…会うんだろう。

俺が、会いたくなったらどうすればいい」

珍しく悲しそうに眉を下げ、オリビアを見つめた。

「願って。会いたいと、そしたら会える」

「…君も願ってくれるのか」

「毎日ね」

オリビアはそう言うと、ウィリアムズ夫妻とレオンの元へ駆け寄った。

「坊ちゃんそんな顔するんですね」

ノーマンがライアンの顔を覗くと、ライアンは顔を背けた。

「オリビア嬢とこの前よりも親しくなってますね。なにか進展があったんですか?」

ニヤニヤするノーマンをうざがるライアンは眉間に皺を寄せた。

「前話した前世の妻だ」

「へぇ〜!前話してたオリビア嬢と似てるっていう前の奥様ですか!………え?!」

「お前の反応はいちいちでかくてうざいんだよ」

「オリビア嬢が?!どんな巡り合わせですか?!
えぇ〜…うそぉ………あ、でも…

今のオリビア嬢の婚約者はレオン様なんですよね」

ライアンを見ると、ウィリアムズ夫妻とレオンに、
楽しそうに話ているオリビアを黙って見つめていた。

なんとも思わないわけがない。
今はその感情を殺すしかなかった。
そんなライアンを見て、ノーマンは心が痛かった。


オリビアは別れの挨拶を済ませると、少し離れたところにまだいるライアンを見た。

相変わらず無愛想で、つまらなそうな顔をしている。

長い一週間だった。
10年以上会いたいと願った相手には、たった一週間で巡り会えた。

ーわたしはもう生きていける。

 愛を知っているから。

オリビアは歩き出した。

ーもう一度だけ、あなたのもとへ。

ライアンの元まで駆け寄ると、
映画のワンシーンのようにライアンの右の頬にキスをした。

「「?!」」

ライアンは何が起こったのかわからないというように驚いてきょとんとした。

ノーマンは驚いたように口を大きく開けた。

「手紙を書くわ。じゃあね!」

嬉しそうに満面の笑みで背を向け戻っていくオリビアに、ライアンは小さく笑った。
つらかった時間が嘘だったかのように、時計が動いていく。

もう、二人は大丈夫だろう。
お互いを許し、自分自身を許せたから。

次に会うのを楽しみにして、ライアンは背を向けて歩き出した。

プリ小説オーディオドラマ