第15話

アイドルのビビッとキス
2,472
2019/11/18 11:42
休日の駅前でも、朝の9時はまだ人が少ない。それに、いつもの駅と少し違って見える。なんというか、非日常的に感じてしまう。
夢叶
夢叶
どうしよう……予習はしてきたけどまだ練習が足りてない
鞄から、「デート入門編初級コース」という教科書を取り出す。
夢叶
夢叶
えーと、待ち合わせはソワソワせず落ち着いた雰囲気を出す。姿勢を伸ばし、鞄を前に爪先をそろえて……
朔也
朔也
ふーん。それで、次は?
夢叶
夢叶
顎を少し引いて、口角を上げるそうです……って、朔也くん!?
黒縁の眼鏡に、黒ハットを被った朔也くんが私の右肩越しに本を覗き込んでいる。
朔也
朔也
こんなもの読まなくても、俺に任せればいいのに
夢叶
夢叶
あ、ちょっと!
私の手から、本が奪われてしまう。
朔也
朔也
没収。予習なんか要らねーよ。ぶっつけ本番が楽しいんだろ?
 ポンポンと優しく頭を撫でられる。
朔也
朔也
ほら、行くぞ
夢叶
夢叶
あ、う、はい
上手く言葉が出て来ない。
朔也
朔也
あ、それとちゃんとその服と髪飾り付けてくれているんだな
朔也くんが選んでくれた、水色のワンピースと銀色の星のヘアピン。
夢叶
夢叶
はい。折角なんで……変ですか?
朔也くんの口角が大きく上がる。
朔也
朔也
そんなわけあるかよ。俺の為におしゃれしてきたことも含めて可愛いよ
変な汗が出てきた。気を張ってないと、頬が緩んで変な顔になりそう。
朔也
朔也
ほら、行こう。早くしないと、いい席が無くなる
朔也くんに手首を掴まれ、歩き出す。
ドキドキ
手汗かいたら嫌だな。
◇        ◇          ◇
友達と映画館なんて初めて。
夢叶
夢叶
あの、普通の席じゃないのですか?
普通のシートじゃなくて、間に肘置きがない。ソファーみたいな席。
朔也
朔也
知らねーの?男女で来るとここに座らないといけないんだ
夢叶
夢叶
そ、そうなんですか。知らなかったです。勉強になりました!今度から、そうします!
朔也
朔也
駄目だ!
夢叶
夢叶
え、あ、はい
朔也
朔也
いや、その……俺と来た時だけ。他の奴、特に真広とは絶対に座っちゃ駄目だからな
すごく、必死なのは伝わってきた。なんで、真広くんとは駄目なのか分からないけど、頷いておく。
朔也くんが安心したように笑う。
朔也
朔也
ほら、座って。おまえは、ホットの紅茶でいいよな
夢叶
夢叶
はい。ありがとうございます
ゆっくりと席に座る。やっぱり、近いな。というより、朔也くんが私に寄ってきている?
朔也
朔也
ちょっと、怖いやつだけど平気?
夢叶
夢叶
どうでしょう。ホラー映画なんて観たことないんで
朔也
朔也
そ、そう!ヤバくなったら、俺の肩とかで隠れてもいいからな!
夢叶
夢叶
その時は、よろしくお願いします
◇         ◇          ◇
すごく、興味深い。死んだ人間が生き返って、生きている人間に襲い掛かる。ハラハラ、
ドキドキ展開のストーリー。ホラー映画ってこんなに面白いなんて知らなかった!
朔也
朔也
ウワッ!
痛っ!
朔也
朔也
ま、マジか……
朔也くんが私の右腕をぎゅっと握り締めてくる。朔也くん、映画観てないよね?というより、私の腕で目元を隠している。もしかして、苦手だった?
私の腕を掴んでいる朔也くんの左手を取り、握る。
朔也
朔也
え、
夢叶
夢叶
こうしていたら、平気ですか?
朔也
朔也
なんだよ……俺、かっこわりーな
あ、傷付けてしまった!?
夢叶
夢叶
い、いえ!違うんです!私が握りたいんです!
言っていて恥ずかしい。でも、少しいいかも。嬉しい?っていうのかな?
朔也
朔也
なら、良いけど
優しく握り返してくれる。手から、私の心拍が伝わってしまうのではないかと不安になってしまうけど。
夢叶
夢叶
っつう~!!
見ていないうちに、主人公とヒロインが熱いキスをしている。人のキスを見ることになるとは、気まずい。
朔也
朔也
お、なんだよ?そんなにソワソワしやがって
先程と打って変わって、楽しそうに私の耳元で囁いてくる。
夢叶
夢叶
な、なんでもないです!
朔也
朔也
わかりやすいな
朔也くんが私の肩に腕を回して、強く引き寄せられる。
夢叶
夢叶
さ、朔也くん……!
朔也
朔也
なあ?ドキドキするだろ?薄暗くて、人も少しいる中で身体を寄せ合って
暗くて、朔也くんの表情は分からないのに視線は感じる。
朔也
朔也
この席、カップル席っていうんだ。さっきは、教えなかったけど
カップル!?
朔也
朔也
だから、こういうことをするのも想定内の席だということ
チュッ
頬に柔らかな感触を感じる。
叫びそうなのを堪える。私、喜んでいる?ふしだらな女になってしまったの!?
朔也
朔也
悪い。意地悪し過ぎた。つい、キスしたくなって
耳から入ってきた朔也くんの声が、脳に届き体中の骨が解けそうになる。
映画の内容なんて、頭に入ってこない!

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