門をくぐった瞬間、うす男はぴたりと立ち止まった。
校舎を見上げ、ゆっくりと瞬きをする。
視線の先は建物ではない。
生徒たちが抱えている大量の教科書だ。
眉間にしわが寄る。
そう呟いた直後、曲がり角から勢いよく誰かが飛び出してきた。
どん。
軽い衝撃。
小柄な女の子が尻もちをつき、うす男は細長い身体をふらりと揺らしながらも、まるで風に吹かれた電柱のようにゆっくりと元の角度へ戻る。
沈黙、三秒。
女の子が顔を上げる。
うす男は無表情のまま彼女を見下ろした。
そして真顔で言う。
そう言うと、自分の制服のポケットを探る。
何も入っていない。
悔しそうに奥歯を噛む。
女の子は完全に固まっている。
うす男はゆっくりしゃがみ込み、彼女の落とした教科書を一冊持ち上げた。
表紙を見た瞬間、顔が引きつる。
真剣な顔でうなずく。
そして教科書を彼女に差し出しながら、静かに言った。
女の子は恐る恐る受け取る。
うす男は立ち上がり、風に揺れる桜を見上げる。
唐突にそう告げる。
真顔。
桜がひらりと彼の肩に落ちる。
彼はそれをつまみ、じっと見つめる。
ぽいっと空に投げる。
そして何事もなかったかのように歩き出しながら、ぼそり。
女の子はその背中を見送りながら、ぽつり。
うす男は聞こえていないふりをしつつ、ほんの少しだけ口角を上げた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。