髪を舞いあげる優しい風と、
耳に囁く波の音が聞こえてそっと目を開けた。
僕は、サンダルを両手で大切に抱えて立っていた。
辺りを見渡しても、もちろんおばあちゃんは居ない。
分かっている。
でもあれは幻なんかじゃない。
本当だ。
手に持つサンダルが証拠。
おばあちゃんは、
このサンダルを無くすなと言っていた。
おばあちゃんがくれたサンダル。
(ずっと大切にするよ。)
海は青墨色に染まっていた。
水面に反射した月が絵に描いたように綺麗。
空を見上げれば星が降ってきそうだ。
思いっきり空気を吸い込む。
潮の匂いと夏の匂いだけがした。
足の砂を落として丁寧にサンダルを履いた。
サラサラの砂を必死に踏みながら進んでいく。
青い青い海を背に。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。