第9話

episode.8
80
2021/08/13 13:00
髪を舞いあげる優しい風と、

耳に囁く波の音が聞こえてそっと目を開けた。





僕は、サンダルを両手で大切に抱えて立っていた。
辺りを見渡しても、もちろんおばあちゃんは居ない。
分かっている。


でもあれは幻なんかじゃない。


本当だ。

手に持つサンダルが証拠。
おばあちゃんは、
このサンダルを無くすなと言っていた。

おばあちゃんがくれたサンダル。
(ずっと大切にするよ。)

海は青墨色に染まっていた。
水面に反射した月が絵に描いたように綺麗。
空を見上げれば星が降ってきそうだ。




思いっきり空気を吸い込む。
潮の匂いと夏の匂いだけがした。







足の砂を落として丁寧にサンダルを履いた。
サラサラの砂を必死に踏みながら進んでいく。
青い青い海を背に。

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