…やはり、あまり口は挟まないでおこうか
あからさまに不機嫌そうな重衡さんのあとを着いていく。
…知ってる。ここで喋ったら五月蝿いって思われる。
歩きながら私はこの屋敷の地形を見える限り頭に入れる。
しばらく歩いていると、重衡さんは一つの扉の前で足を止めた。
重衡さんにとって、私はなんでもない。
武士でもない。
今日知り合ったばかりの普通の女。
そして主がもう居るからと頼朝さんに条件を付けた。
…信用なんて、微塵もないだろう。
…そちらの方が、生活面は都合がいいが、正直、剣…じゃない、刀の実力は見ておきたい。
…あばよくば、扱ってみたい。
新しい武器の使い方や弱点を押えておくに越したことはないし、使いやすいなら帰っても作って普及出来るようにしたらいい。
それに…幕府に身を置く以上、認めてもらう方が動きやすい。
情報を集めて、帰る方法を探さなきゃなんだから。
そんなことを考えながら重衡さんに頭を下げる
…来る。
分かっていても抵抗はせず、手を掴まれて引き寄せられる
長い睫毛に縁取られたら瞳が、真冬の星のように冷たくきらめいて、私に迫る
…ここで抵抗してもいいけど、怪しまれちゃうかな?
…女性の力では、鍛えても、相手が鍛えた男性なら敵うはずも無い。
女性の強みの体の柔らかさだって、正直な力の前では意味もない。
この人は分かって言っている。…私だって、ぶるーく様たちの前で、痛いほど思い知った。
だから、私は。疑われるリスクなんて、侵さない。
月の光にしなやかな髪がさらりと揺れ落ちた。
作り物のような顔が、吐息の触れそうな距離まで__











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!