第10話

 𝟗 . 受け止められないこの事実 __
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2023/12/13 15:00







 滲む涙を少し乱暴に制服の袖でゴシゴシと拭うと 、
 滲んだ視界がクリアになって 、目の端に映る窓から
 溢れ出る柔らかい日差しが癪に障るくらい 、
 キラキラと輝いていた 。


 少し眩しく感じるその光に目を細める 。


 いつのまにか先程まで浮かべていた笑みが
 崩れていた事なんて全然気づかなくて 、
 ただ 、この胸の苦しさを消すのに必死で 、
 また滲みそうになる涙をぐっと堪える 。



 ただどうしようもなく 、
 鼻の奥がツンとして 。目頭が熱くて 。
 段々と無意識に弱気になっていく自分に嫌気がさした 。


 ガヤガヤと騒がしくて 、賑やかな教室にとって 、
 場違いすぎるようなこの表情を誰にも見られたく
 なんてなくて 。


 机に顔を伏せてぎゅっと目をつぶった 。



 すると抑えきれなくなった涙が頬を濡らして 、
 また酷く痛む胸と 、拭えない息苦しさが押し寄せる 。



 『 ッぅ ... 。 』



 思わず声が漏れると 、荒くなる息遣い 。



 耳の奥で心臓の音が 、大きく 、鮮明に響いて 、
 全身が圧迫されているような感覚に陥った 。


 生活音や周囲の声がだんだんと遠のいて 、
 不快感と気持ち悪さが増す 。


 私の名前を呼ぶ声がした気がするけれど 、
 段々と聞こえなくなる音に耳をすませるほどの
 余裕なんてなかった 。


 込み上げてくる謎の不快感から逃れるために
 息を吐き出すと 、ズキリ 、と増す胸の痛み 。


 ひとつひとつの胸の鼓動が
 重くて 、痛くて 、大きくて 、苦しくて 。



 恋という気持ちが心に存在する事実を受け止めるのが 、
 この時の私にとっては 、何故だか 、
 どうしようもない程に辛くて仕方なかった 。


 受け止めきれない
 この気持ちにぐちゃぐちゃになった心 。



 この苦しみに耐える方法が思いつくほど 、
 頭はまわらなくて 。


 そんな事実にまた胸が締め付けられて 。


 改めて恋の辛さを実感することしかできなかった 。

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