第11話

11
20
2021/06/13 10:02
 日曜の午後。部活終わりのバスから降り

て、家まで歩く。夏の日差しが強い。中部だ

から、なかなか慣れないな。

「あっ」

少し先の曲がり角に、自転車を漕ぐ数人の男

子が溜まっているのが視界に入って、思わず

目の前の店に隠れた。別に隠れる必要は無

い。けど、体が勝手に動いてしまった。なぜ

なのかは私でも思い付く。

……あの集団の中に、透さんがいるから。

「またなー」「おーう」と、それぞれの道

へ別れて行く。案の定、透さんはこっちの道

へ自転車を向けた。

どうしよ、透さんと最近話せてないんだよ

な……。何となく、四葉の事で、避けちゃっ

て。

────四葉と成瀬さん、付き合ってるか

ら。

不意に前の日南乃の言葉が頭をよぎる。

でもこのままここで隠れてても、透さんがこ

こを通れば確実に見つかるし……。

「あっ、祈ちゃんじゃん」

えっ。

「あっ……」

考えている間に、普通に見つかってしまっ

た。透さんは何の違和感も無く、いつも通り

の優しい笑顔で私を見てくる。

「あ、ど、どうも」

「ぷッ。何、どうしたの。そんなによそよそ

しくなっちゃって」

「い、いや、その」

「ここんところ忙しくて全然話せてなかった

よね。まぁ、総体が近いから、しゃーねぇけ

どな」

自転車のストッパーをかけて、「そんな影に

いないでさ」と手招きされた。

うわ、私服の透さん初めて見た。やっぱり

オシャレだな。

黒いTシャツに白いパンツだけど、さすが。

よく似合ってる。これはモテるよね。

「日曜なのに、部活?」

「あー、はい。合同練習だったんです」

「そっか。お疲れ様。あ、透さんは?」

「俺は塾だよ。夏期講習でさ、仲間もいたか

らいいけど、受験生って参るよな」

あ、そうか。透さんももう受験か。じゃあ、

再来週の総体が終わったらもっと忙しくなる

んだろうな。

なんでか、ちょっと寂しい。

いや、透さんは好きだけど、別に恋愛対象な

訳ではない。ただ仲がいいってだけだもの。

「……ね、ねぇ。透さん」

「ん?」

「四葉…ちゃんと、付き合ってるって、私こ

の間聞いたんだけど」

そう言った途端、透さんが顔をしかめて目を

逸らした。

「透さん?」

「……佐海とは、もうとっくに別れたんだ」

「えっ?」

ついこの前付き合ってる事を知ったと思った

ら、いつの間に別れてたなんて。

なんか、申し訳ない事言っちゃったかな。

「なんか、ごめん」

「いや、全然平気だよ。俺こそごめんな、気

遣わせちゃって」

透さんはすぐに笑みを作り直す。

「学年も違うし、だんだん会わなくなって、

お互い冷めちゃったんだろうな」

「そう、なんだ」

冷めたって、なんか、リアルだな。

あれ。

って事は、四葉が涼佑と距離が近いのも、気

のせいじゃないかも知れないの?

「ん、どうした?」

「あ、いや……。なんでも」

ない。

と、思いたい。けど。

プリ小説オーディオドラマ