祐生への告白に失敗した日の昼休み。
教室でお弁当を食べながら朝のことを話すと、親友の三坂春奈がおどろいた声をあげた。
おなじ図書委員になったことがきっかけで知り合った春奈とは、趣味も合うしなんでも話す仲。もちろん祐生への気持ちも前から話している。
恋愛予報のことは秘密だけどね。
あきれた目をしている春奈に、私はきっぱりと言う。
意外そうに春奈が言ったけど、馬鹿にしないでほしい。
ちなみに、あれ以降〝恋愛予報〟はいつも通りだ。
警報なんて出てないし、マークに異常があらわれることもない。
そもそも私は自分の恋愛予報を見ることができない。
バグみたいなものかもしれない。だから無視していいだろう。
あんな変なこと、二度も起こるとは思えないもの。
ふたたび覚悟を決めた私に、春奈が納得した顔をした。
春奈に聞かれ、私は「じつはね」と声をひそめた。
勝手知ったる図書館付近なら、きっと変な邪魔も入らないだろう。
春奈が「うん、がんばれ!」と笑顔を向けてくれた。
そしておとずれた放課後。
どきどきする胸をおさえながら、私は祐生を待っていた。
深呼吸を一回、二回。
あたりに目を向けると、銀杏や紅葉などが秋らしく色づいている。
奥には慣れ親しんだ図書館があり、窓越しにいくつもの書架が並んでいるのが見えた。
落ち葉がかさかさと鳴り、誰かが近付いてくるのを知らせる。
ごくりと息をのみこむ。
おどろく? 困る? それとも、どうもしない? あるいは──。
照れたりしてくれればいい。
ときめいてくれればいい。
祐生にとって〝幼なじみ〟じゃなく、〝女の子〟になりたい。
祈るような気持ちで手を組む。
足音のするほうに視線を向ければ、あわててくる祐生と目が合って。
「ごめん、ヒカリ! 遅くなった」と謝る祐生に、私は「ううん」と首を横にふった。
祐生が立ち止まるまえに、言う。
びこん、びこん、びこん!
頭のなかで、例のブザーみたいな音がした。
とちゅうで言葉を止めた私に、祐生が首をかしげる。
だけど、私の目の前には大きな文字が広がっていて。
【晴れ】【大雨】【雷】【雪】【くもり】/【危険・三角関係警報発令中!】
頭のなかでブザーはうるさいし、目の前には文字が大きく広がってる。
だけど祐生には聞こえない・見えないもののはず。
だから私は気にしないことにして、ふたたび口を開いた。
ひゅるるるる、ぱしっ!
いい音を立てて、祐生が空から降ってきた何かをつかむ。
おどろいた。
呼吸が止まった。
だって私が好きって言いおわる寸前に、祐生がものすごい速度で動いたんだもの!
私の全身全霊の疑問に、祐生が「グラウンドのほうで練習してる野球部がとばしたのかな」と手のなかのボールを見つめた。
すごすぎて何も言えなくなる。
けれど祐生は私が絶句しているまえで、みるみるうちに真剣な顔つきになっていった。
とにかく告白したい私は祐生をひきとめようとした。が。
「いつも俺がそばに居られればいいけど、そういうわけにもいかないからね。生徒会としても他の生徒のためにも必要なことだから」と言って祐生はグラウンドに向かっていった。
あとに残された私は、どういう反応をすればいいのかわからなくて。
真剣な顔の祐生もかっこいいな、と思うくらいしかできなかったのだった。
とうぜん、告白リベンジなんてできる余裕はゼロ。
つまり私は、二度目の告白も失敗したのだった……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!