第6話

<1-4 いざ、告白・2>
2,501
2019/03/20 08:15
三坂 春奈
で、ヒカリってば日吉くんへの告白やめちゃったわけ?
祐生への告白に失敗した日の昼休み。
教室でお弁当を食べながら朝のことを話すと、親友の三坂春奈みさかはるながおどろいた声をあげた。
おなじ図書委員になったことがきっかけで知り合った春奈とは、趣味も合うしなんでも話す仲。もちろん祐生への気持ちも前から話している。
恋愛予報のことは秘密だけどね。

あきれた目をしている春奈に、私はきっぱりと言う。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
言っておくけど、私、告白するのをやめたわけじゃないから
三坂 春奈
へー。弱気になってくじけてるのかと思ってた
意外そうに春奈が言ったけど、馬鹿にしないでほしい。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
そりゃ私は小心者だしメンタル強いほうじゃないけど、さすがに告白はあきらめられないよ。なにせ八年間の想いなんだから
ちなみに、あれ以降〝恋愛予報〟はいつも通りだ。
警報なんて出てないし、マークに異常があらわれることもない。
そもそも私は自分の恋愛予報を見ることができない。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(きっと何か恋愛予報が暴走したんだ)
バグみたいなものかもしれない。だから無視していいだろう。
あんな変なこと、二度も起こるとは思えないもの。
ふたたび覚悟を決めた私に、春奈が納得した顔をした。
三坂 春奈
なるほど。じゃあどうすんの? また明日の登校中とか?
春奈に聞かれ、私は「じつはね」と声をひそめた。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
祐生には、今日の放課後に図書館裏の中庭に来てほしいって言ってあるんだ
三坂 春奈
おー、すばやい!
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
だってせっかく決意したんだもん、必死にもなるよ
勝手知ったる図書館付近なら、きっと変な邪魔も入らないだろう。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
朝のリベンジ、してみせる……!
春奈が「うん、がんばれ!」と笑顔を向けてくれた。
そしておとずれた放課後。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(今度こそ、言うんだ)
どきどきする胸をおさえながら、私は祐生を待っていた。
深呼吸を一回、二回。
あたりに目を向けると、銀杏や紅葉などが秋らしく色づいている。
奥には慣れ親しんだ図書館があり、窓越しにいくつもの書架が並んでいるのが見えた。
落ち葉がかさかさと鳴り、誰かが近付いてくるのを知らせる。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(きっと祐生だ)
ごくりと息をのみこむ。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(私が告白したら、祐生はどんな表情をするのかな)
おどろく? 困る? それとも、どうもしない? あるいは──。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(すこしでも、喜んでくれればいいのに)
照れたりしてくれればいい。
ときめいてくれればいい。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(ほんのすこし、一瞬でもいいから)
祐生にとって〝幼なじみ〟じゃなく、〝女の子〟になりたい。

祈るような気持ちで手を組む。
足音のするほうに視線を向ければ、あわててくる祐生と目が合って。

「ごめん、ヒカリ! 遅くなった」と謝る祐生に、私は「ううん」と首を横にふった。
祐生が立ち止まるまえに、言う。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
あのね、私──
びこん、びこん、びこん!
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(な!?)
頭のなかで、例のブザーみたいな音がした。
日吉 祐生
日吉 祐生
ヒカリ?
とちゅうで言葉を止めた私に、祐生が首をかしげる。
だけど、私の目の前には大きな文字が広がっていて。

【晴れ】【大雨】【雷】【雪】【くもり】/【危険・三角関係警報発令中!】
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(ま、また!? えっと、もう無視するしかない!)
頭のなかでブザーはうるさいし、目の前には文字が大きく広がってる。
だけど祐生には聞こえない・見えないもののはず。
だから私は気にしないことにして、ふたたび口を開いた。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
日吉 祐生
日吉 祐生
────ヒカリ、危ないっ
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
は!?
ひゅるるるる、ぱしっ!
いい音を立てて、祐生が空から降ってきた何かをつかむ。

おどろいた。
呼吸が止まった。
だって私が好きって言いおわる寸前に、祐生がものすごい速度で動いたんだもの!
日吉 祐生
日吉 祐生
なんだこれ、野球のボール?
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
なんでボールが降ってくるの!?
私の全身全霊の疑問に、祐生が「グラウンドのほうで練習してる野球部がとばしたのかな」と手のなかのボールを見つめた。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(全然とんでくる気配なんてなかったよ!? なのにすぐさま受け止められるって、祐生の反射神経とか運動神経はどれだけすごいの!)
すごすぎて何も言えなくなる。
けれど祐生は私が絶句しているまえで、みるみるうちに真剣な顔つきになっていった。
日吉 祐生
日吉 祐生
俺、ちょっと野球部のボールがとんでこないようネットの取り付けなり練習方法なり相談してくる。こう見えても生徒会の一員だし
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
えっ、いま?
日吉 祐生
日吉 祐生
早いほうがいいかなって。ヒカリの用事ってもしかして急用?
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
そういうわけじゃないけど、ただ、そこまでしなくてもいいんじゃって思っただけで
とにかく告白したい私は祐生をひきとめようとした。が。
日吉 祐生
日吉 祐生
だめ。だって図書館の近くだと、ヒカリに当たる可能性があるでしょ。心配じゃん
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
「いつも俺がそばに居られればいいけど、そういうわけにもいかないからね。生徒会としても他の生徒のためにも必要なことだから」と言って祐生はグラウンドに向かっていった。
天野 ヒカリ
天野 ヒカリ
(や、やさしすぎる……!)
あとに残された私は、どういう反応をすればいいのかわからなくて。
真剣な顔の祐生もかっこいいな、と思うくらいしかできなかったのだった。
とうぜん、告白リベンジなんてできる余裕はゼロ。

つまり私は、二度目の告白も失敗したのだった……。

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