第49話

48話
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2026/08/09 14:00 更新
去っていく背中を見送りながら、オレはふうっと小さく息を吐き出す。

……あーあ、せっかくラルくんと2人で決めた記念すべき初デートだったのに、あんな変な横槍のせいで、ちょっぴり水を差された気分だ。

すごく楽しかったし、ラルくんも喜んでくれてたはずなのに、あの執拗い女の子たちのおかげで台無し……。

オレが少し眉をひそめて、行き場のないモヤモヤを胸の内で膨らませながら不機嫌なオーラを纏っていると、ラルくんがそっとオレの服の裾をトントンと引っ張った。
ラルバ
ラルバ
……けーくん?
腕の中に閉じ込めたままのラルくんが、そっと顔を上げてオレを見上げてくる。

その瞳には、さっきまでの困惑の色はすっかり消えていて、代わりにオレの反応を面白がるような、茶目っ気のある光が宿っていた。
ラルバ
ラルバ
もしかして、嫉妬してくれたの?
ケイト
……っ、そりゃするでしょ! やっとラルくんと2人きりの大切な時間だったのに、邪魔されて台無しにされた気分だもん。……せっかくのデートなのにさ
唇を尖らせて不満をアピールすると、ラルくんは困ったように、でもどこか愛おしげにふっと目を細めた。
ラルバ
ラルバ
そっか。でも、すごく、カッコよかったよ、彼氏さん
ラルくんは少し恥ずかしそうに頬を染めながらも、オレの手を自分の両手で包み込むように優しく握りしめてきた。

そして、ゆっくりと顔を上げると、世界で一番甘い笑顔で微笑んでくれる。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥につかえていたモヤモヤとした不快感なんて、まるで嘘みたいに一瞬で吹き飛んでいった。
ケイト
ラルくんがそんなこと言うから……また惚れ直しちゃうじゃん……
​衝動のまま、思わず強く抱きしめようとしたオレを、ラルくんはやんわりと、でもしっかりと両手で押しとどめる。
ラルバ
ラルバ
せっかく街に出たんだから、こんなところで立ち止まってないでもう少しデートしようよ。ね?
こてんと首を傾げながら、悪戯っぽく、でも少しだけ甘えるようにお願いされて、断れる男がこの世にいるだろうか。いや、いない。

オレは顔を真っ赤にしながら、慌てて何度も頷いてみせた。
ケイト
そっ、そうだね! ええっと、次は……どこに行こっか。服でも見に行く? それとも──
ラルバ
ラルバ
ふふ、次は僕が決めるね。けーくん、ついてきて
そう言ってラルくんは、オレの手を今度は自分からしっかりと引き寄めて歩き出した。

さっきまでリードしていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転している。

でも、どこか嬉しそうな彼の背中を見ているだけで、自然と足取りが軽くなった。

どこに連れて行かれるんだろうとドキドキしながら街を抜け、おしゃれなエリアから少し外れたレトロな通りへ。

やがて視界に入ってきた赤提灯と使い込まれた暖簾を見上げて、オレは思わず目を剥いた。
ケイト
えっ……ら、ラーメン屋さん!?
いかにも年季の入った昔ながらのラーメン屋だった。

まさかラルくんの口から「次は僕が決める」なんて言われて、ここに連れてこられるとは夢にも思わなかった。驚いて目を丸くするオレを見て、ラルくんは満足そうにクスッと笑う。
ラルバ
ラルバ
だって、さっきのカフェで、けーくん僕に譲って、自分の分はあまり食べなかったでしょ?
ケイト
うっ……! そ、それは……
ラルバ
ラルバ
それに、さっき嫌な思いした分、美味しいもの食べてリフレッシュしよ? ここ、辛いのもあるから好きなの頼んでね
オレの機嫌を直そうと、わざわざここを選んでくれたんだ。そう気づいた瞬間、胸の奥がキュンと甘く締め付けられる。

暖簾をくぐり、カウンター席に並んで座る。

メニューを開くと、一番端に「特製激辛味噌ラーメン」の文字が。辛いもの好きの血が騒ぎ、迷わずそれを注文した。

……で、ふと気づいて隣のラルくんの手元を見る。
ケイト
あれ? ラルくんは頼まないの?
ラルバ
ラルバ
うん、僕はさっきのカフェでタルト食べたから、まだお腹いっぱいで。けーくんが美味しそうに食べるところ、特等席で見せて?
ラルくんはカウンターに両肘をついて、可愛らしく両手で顎を支えながら、笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。

そんな至近距離で見つめられたら、緊張しすぎてラーメンの味なんて分からなくなっちゃいそうなんだけど……!

早くなる鼓動を全力で誤魔化すように、オレは目の前にドンと置かれた器へ慌てて視線を落とした。
ケイト
うわ、めちゃくちゃ美味そう……! じゃあ、お言葉に甘えて。いただきまーす!
割り箸を割って、まずはスープを一口。ピリッとした強烈な辛さと、豚骨ベースの濃厚なコクが口いっぱいに広がる。
ケイト
んんっ! 旨っ……! ここ、マジでアタリだよ!
ラルバ
ラルバ
ふふ、良かった。あ、けーくん、ちょっと待って
夢中で麺をすすろうとした瞬間、ラルくんの細い指先が、オレの顔の横にそっと触れた。
ケイト
え……?
ラルバ
ラルバ
髪、スープについたら大変だから
ケイト
あ、ありがと……
その距離、わずか数センチ。至近距離から向けられる真剣な瞳と、ふんわりと香る彼のシャンプーの匂いに、脳の処理能力が完全にフリーズした。
ラルバ
ラルバ
ふふ、なに固まってるの。顔、さっきより真っ赤だよ?
ケイト
うっ……! いや、だって、急にそんな至近距離で……
ラルバ
ラルバ
僕ばかりエスコートされてるからさ、お返し。……どう? ドキドキした?
ラルくんは得意げに柔らかく微笑む。う〜……っ! いつもはちょっと気恥ずかしそうにするくせに、たまにこういう小悪魔っぽいカウンターをサラッとしてくるんだから。

今日はオレがカッコいい彼氏としてリードするはずだったのに、気づけばいつの間にかすっかり、手のひらの上で転がされている気がしなくもない。

オレは真っ赤に染まった顔を両手で覆ったまま、カウンターの端でそのまま突っ伏したい衝動と全力で戦うのであった。

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