去っていく背中を見送りながら、オレはふうっと小さく息を吐き出す。
……あーあ、せっかくラルくんと2人で決めた記念すべき初デートだったのに、あんな変な横槍のせいで、ちょっぴり水を差された気分だ。
すごく楽しかったし、ラルくんも喜んでくれてたはずなのに、あの執拗い女の子たちのおかげで台無し……。
オレが少し眉をひそめて、行き場のないモヤモヤを胸の内で膨らませながら不機嫌なオーラを纏っていると、ラルくんがそっとオレの服の裾をトントンと引っ張った。
腕の中に閉じ込めたままのラルくんが、そっと顔を上げてオレを見上げてくる。
その瞳には、さっきまでの困惑の色はすっかり消えていて、代わりにオレの反応を面白がるような、茶目っ気のある光が宿っていた。
唇を尖らせて不満をアピールすると、ラルくんは困ったように、でもどこか愛おしげにふっと目を細めた。
ラルくんは少し恥ずかしそうに頬を染めながらも、オレの手を自分の両手で包み込むように優しく握りしめてきた。
そして、ゆっくりと顔を上げると、世界で一番甘い笑顔で微笑んでくれる。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥につかえていたモヤモヤとした不快感なんて、まるで嘘みたいに一瞬で吹き飛んでいった。
衝動のまま、思わず強く抱きしめようとしたオレを、ラルくんはやんわりと、でもしっかりと両手で押しとどめる。
こてんと首を傾げながら、悪戯っぽく、でも少しだけ甘えるようにお願いされて、断れる男がこの世にいるだろうか。いや、いない。
オレは顔を真っ赤にしながら、慌てて何度も頷いてみせた。
そう言ってラルくんは、オレの手を今度は自分からしっかりと引き寄めて歩き出した。
さっきまでリードしていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転している。
でも、どこか嬉しそうな彼の背中を見ているだけで、自然と足取りが軽くなった。
どこに連れて行かれるんだろうとドキドキしながら街を抜け、おしゃれなエリアから少し外れたレトロな通りへ。
やがて視界に入ってきた赤提灯と使い込まれた暖簾を見上げて、オレは思わず目を剥いた。
いかにも年季の入った昔ながらのラーメン屋だった。
まさかラルくんの口から「次は僕が決める」なんて言われて、ここに連れてこられるとは夢にも思わなかった。驚いて目を丸くするオレを見て、ラルくんは満足そうにクスッと笑う。
オレの機嫌を直そうと、わざわざここを選んでくれたんだ。そう気づいた瞬間、胸の奥がキュンと甘く締め付けられる。
暖簾をくぐり、カウンター席に並んで座る。
メニューを開くと、一番端に「特製激辛味噌ラーメン」の文字が。辛いもの好きの血が騒ぎ、迷わずそれを注文した。
……で、ふと気づいて隣のラルくんの手元を見る。
ラルくんはカウンターに両肘をついて、可愛らしく両手で顎を支えながら、笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。
そんな至近距離で見つめられたら、緊張しすぎてラーメンの味なんて分からなくなっちゃいそうなんだけど……!
早くなる鼓動を全力で誤魔化すように、オレは目の前にドンと置かれた器へ慌てて視線を落とした。
割り箸を割って、まずはスープを一口。ピリッとした強烈な辛さと、豚骨ベースの濃厚なコクが口いっぱいに広がる。
夢中で麺をすすろうとした瞬間、ラルくんの細い指先が、オレの顔の横にそっと触れた。
その距離、わずか数センチ。至近距離から向けられる真剣な瞳と、ふんわりと香る彼のシャンプーの匂いに、脳の処理能力が完全にフリーズした。
ラルくんは得意げに柔らかく微笑む。う〜……っ! いつもはちょっと気恥ずかしそうにするくせに、たまにこういう小悪魔っぽいカウンターをサラッとしてくるんだから。
今日はオレがカッコいい彼氏としてリードするはずだったのに、気づけばいつの間にかすっかり、手のひらの上で転がされている気がしなくもない。
オレは真っ赤に染まった顔を両手で覆ったまま、カウンターの端でそのまま突っ伏したい衝動と全力で戦うのであった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。