第4話

3.賭けは人の常、導くは弁財天の御心よ。
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2026/01/25 02:27 更新
ルシアン
なっ…!!
放たれた光弾は、イリアスには当たらず
そのかわりに地面を大きく抉った。

放つ瞬間、それ思考を実行する以上の速さで『何か』が横切った。
アクタヴルム
____________フーッ…危ない危ない
久し振りにおじさん、肝が冷えたわぁ。

視界の端の砂ぼこりの隙間から、一人の男を垣間見る。
にへらとした笑みを零さんとするその男は、イリアスとルシアンの対角線上に立ち塞がった。
ルシアン
何者だ…
アクタヴルム
…おじさんの名前は、アクタヴルムだ。
この隊長の保護者ストッパーって所かね?
イリアス
ヴルムさん!?
恐らく自分では避けきれずに何処かを犠牲にしなければならなかった。が、俺は未だに五体満足だ。

自分より少し大きい背中が、とても頼もしく思えた。
アクタヴルム
やー副隊長ピースちゃんに全部丸投げやけど、
こっち来て正解だったね、本当に。
アクタヴルム
あと前も言ったけど
ヴルムで良いのよ、隊長。
余裕綽々にヴルムは軽口を叩く。 
しかし、その眼の中心には白き天使をはっきりと映し出している。
ルシアン
次から次へと……理解できない。
ルシアンは酷く顔を顰め、言い捨てる。
今の状況は、彼にとって最悪と言っていいだろう。
同時に疑問がぽつりぽつりと浮かんでくる。
ルシアン
(どんな手を使った?  
  なぜ…怪我すらない?)
何度も頭に反芻し、今は意味がないと思考を止めた。
幸い、相手の大将は手負い。加勢は一人だ。
ルシアン
(僕…一人で片付けられる…!!)
アクタヴルム
もうボロボロやろ、下がっときなさい
おじさんとバトンタッチだ。
イリアス
だけど______
アクタヴルム
でも、だっての言い訳は無しや。
アクタヴルム
皆のために動きたいんなら副隊長ピースの所に
でも行っとき。
彼は後ろながらに自分自身が来たであろう方向にサムズアップの親指で差していた。

イリアスは僅かながらの逡巡の末、隊長しての責が彼の助言を汲み取った。その声は、身体に多くの傷を負った者とは思えない程に覇気があり、身の芯に響くものであったのである。
イリアス
分かった。ここは任せたぞ…!!
イリアス
だけどもし無理そうだったすぐに戻れよ
そう言い残し、アクタヴルムが指差した方向へと走り出した。瞬き一つすれば、その姿は疾うに消えていた。

アクタヴルム
おじさんが負けると思っとるんか、隊長。
残念ながら、期待には応えられ____________


ゴゥウゥン   



唸るような光の砲撃が、アクタヴルムの近辺の地面を大きく抉った。数cm位置をずらしていなかったのなら、腕は消し飛んでいただろう。
ルシアン
隙を作り過ぎですよ、戦闘中なのですから気を配り、抜かないことですね。
アクタヴルム
ああ、そりゃごもっともだな。
彼は一つ鼻で笑ってみせた。
深く大きく息をつき、今一度白々として浮かぶ白鷺を見遣る。先刻とは打って変わって、笑みは消え静かに構えを取る。
アクタヴルム
おじさん、ちと怒っとんねんな、
やから八つ当たりさせてもらうわ。
アクタヴルム
…始めようか、撃ち合いを。
ルシアン
一方的な蹂躙ですよ、お間違えなく。
ルシアンの指は、アクタヴルムの心臓へと釘を差す。
同時にアクタヴルムは、能力の発動を開始する。
アクタヴルム
賭博黙示録ギャンブル
賭けベット】残金五十万及び一の腕。
表現するのならば、黒く濁った小川のせせらぎの様に耳に、ごく自然の摂理であるかの様に言葉は紡がれた。能力そこには、その者の人生が、人の形が浮かぶのだ。
彼の能力は窯の煮え立つ地獄が底に悠々と鎮座していると思わせる、そのいでたちは人間の姿ソレではなかった。

同時に発されるは、光速の凶弾。
腕の一振りが、無制限の質量を持つ光となった。
天使と称される種族は、みな一様として広義的な能力を備えている。それ故に天使が戦場にとっての脅威であり、驚"異"なのだ。それは最もな常識だ。 

しかし、一つあるとするなら……ほんの少しの慢心。
ルシアン
なにっ…!!
彼を捉えていた一筋の閃光は、草原に大きなクレーターを作るのみであった。
それと対称的であるのは、勢いよく飛び上がったアクタヴルムの身体だ。 
大きく振り被り、共に空中にいるルシアンを殴らんとしている。
ルシアン
くっ……!!
初めて戦場で、ルシアンが焦りの感情を綻ばせた。

しかし反射か、それとも無意識の"合理的選択"だったのか、高速に飛んできた拳をすんでのところで片手により受け止める。
ルシアン
(この拳…!!並の人間が
  出して良い力を逸脱している…!!)
アクタヴルム
『  『 【継続】 』  』
そう、男が呟くと受けた拳が一段と重く…鋭くなった。
ルシアン
(…さらに、力を強めた!?)
一撃で理解した、この男とは接近戦では圧倒的に分が悪いと。戦闘スタイルの経験の差、予測範囲の能力の相性それら全てを加味して、判断を下す。
ルシアン
うぁらぁぁぁっ!!
アクタヴルム
うおっ______
アクタヴルムは、腕を強引に掴み取られ片手で地面に叩きつけられた。全身に重力が伸し掛り、ルシアンの能力によって荒れた地面にヒビがはいる。

周りが崩れ、叩きつけた場所に土砂が雪崩れる。
ルシアン
______ふうっ…!!ふっ…!
力み過ぎたのだろうか、それとも普段なら使わないであろう天使しゅぞく本能としての力を引き出したからか、ルシアンは息を大きく荒げていた。

人間ならば、全身がひしゃげ肉塊となっていてもおかしくない…と考えていた。






が、その男はいとも容易く崩れた岩の中から立ち上がってきたのだ。
アクタヴルム
ぁ゙ー…結構いいもん持ってるじゃねぇか
アクタヴルム
やっぱり、敵わんなぁ。
そう、口にはすれどその姿には未だ闘志は煮え滾っていた。全身から血を噴き出し、服も血塗れではあるが彼は平然と地面に立っている。


ルシアンは目を見開く。
人間とは、なぜここまで…なぜ…
ルシアン
本当に、貴方達は理解出来ない。
なぜ残火にんげんはそこに立つ…!
なぜ我々天律を理解しようとしない…!!
アクタヴルム
ここに立つ理由…ね。
残火おれらに言わせりゃ『命はみな平等』だからか?
言葉を交わす内の動きの緩和直後、瞬時に亜音速に近い領域へと彼は足を踏み入れる。風を切る音、地を踏み抜き跡を刻み付けるような轟音が辺りに響き渡る。

その中で、ルシアンは全速力で羽根を動かし彼から遠ざかり、正確無比に男の動きを観測する。
ただ、じっと能力さえも使わずに。
ルシアン
ここ。
バギャァッン


針に糸を通すかの如く、音速で動くアクタヴルムの心臓付近を光の弾丸が撃ち抜いた。瞬間、動きがピタリと止まる。少しの後に勢い良く血が胸部より吐き出される。

ルシアン
大見得を切った手前、これで終わりだ。
アクタヴルム
はッ…それはどうかな?
彼は…笑った。

おかしい、おかしい。心臓を射抜かれたのなら人間は確実に死ぬだろう。それが限界だ。 
人の、人間としての上限のはず。

当然の思い込み。それは時にして最大限の枷に成り果てる。 



______その男は、何事もなかったかのように奔り出した。




ルシアン
(彼は…!!
   彼はなぜ"生きている"んだ…!!)
一瞬の隙が、彼との距離を大きく詰めた。 
またしても、予想外イレギュラー

最善手は、未だ見えず。"選択己の意思による"が出来なかった。 
故に、ルシアンはイリアスの時と同じ選択を取った。

能力物量による圧殺。

アクタヴルムには圧倒的な質量が、目が眩む程の光の荒波が襲いかかる。

それは、恣意的な奔流よりアクタヴルムを右腕を刈り取った。
ルシアン
______まさか、再生…している?
アクタヴルム
ビンゴだ、坊っちゃん。
そう男が答えると瞬時に、彼の右腕は再生した。   
いつの間にか、彼の胸に空いた空洞はすっかり塞がってもいる。
自分の身体が削れる事も厭わず、前へ前へ進んでゆく。

ビュッン

眼前に相対す。


一撃、左からの振り被ったフック。
その速度は、音速を超えた。
アクタヴルム
『『   『『 【大当りヴィクトリー】 』』   』』
ルシアン
ぐぅッ…!!!
アクタヴルム
暫しの仕返しだ。
能の一部、一分間に光速に達そうともする拳の連撃。
一秒間において約十連撃は、ルシアンの急所を的確に撃ち抜いてくる。

ルシアンは、視認出来るが故、腕で防御の姿勢を成す。
しかし、それも数秒の猛攻により、剥がされた。  
数秒、されど打撃が続く長い時の最中、思考が逡巡する

______僕は、自分の中での常識に囚われてしまった。


長きに渡った一分の末、白鷺の天使は地面に倒れた。
ルシアン
ゔぐっ…かはっ……。
アクタヴルム
フーッ…フーッ…
互いに、満身創痍だ。











荒げた呼吸を、どちらも落ち着けた頃。
ルシアンが口を開いた。
ルシアン
手を…抜きましたね…。
全て、軽いジャブだった…でしょう?
アクタヴルム
はぁ…何だバレとったか…
まぁ、殺したい訳ちゃうしな。
先程まで、辺りに響き渡る程の轟音を発しながら闘っていた二人は、静寂に包みこまれる。
アクタヴルムは、この静寂は苦手だ。気まず過ぎる。

その気まずさを打ち破ったのはルシアンの心からの疑問だった。
ルシアン
…ずっと…気になっているんです…。
ルシアン
なぜ…貴方アクタヴルムも…イリアスも…そこまで強いのですか…?
まだ、完全には回復しきっていない身体で彼は問う。
アクタヴルム
護るべき者が、居たから、だ。
強く、はっきりと応えた。私にも分かる。大切で、綺麗で、誰にも汚せない、汚させない物。
アクタヴルム
俺の手からは零れちまったが、俺はアイツの手を支えてやる事はできる。
アクタヴルム
誰にも、失って欲しくないから強いんだ。
ルシアン
彼に初めて会った時、彼は仲間を護っていた。だが、僕にはそれが分からなかった。
ルシアン
なぜ、弱点を作るのか。強さを捨てるのか…と。
アクタヴルム
お前も…護るものが出来たら、分かるさ。
話に一段落付け、彼は近くの岩に寄りかかっている
ルシアンに近づく。
アクタヴルム
肩、貸すぞ。天使の坊っちゃん。
少し力入れて殴り過ぎたわ、すまんな。
ルシアン
…僕は、残火からしたら生かす価値は…ありませんよ。
差し出された、手を見つめ、彼の顔をもう一度見遣る。
私達は、敵同士であるとルシアンは示す。
アクタヴルム
そうかもな…だが殺す理由にはならん。
差し伸べた手で、ルシアンの手を強引に引き寄せ、片腕を担ぐ。体重を寄せてもらい、そのまま歩き始めた。
アクタヴルム
綺麗事でもいい、理想論でもいい、それは平和な世界への希望だ。
アクタヴルム
おじさんは、それを繋ぐ者。
託す側だから、未来の若者に。勿論君も。
ルシアン
今じゃない…未来に、託す?
ルシアンは、酷く訝しんだ。
その未来は、果たして到達可能性を秘めているのか。
ルシアン
今の情勢では戦争なき未来はあり得ない…天使と悪魔は和解など出来ないでしょう…
アクタヴルム
人も、世界も、勿論天使と悪魔も時間が、経てば変わっていく。
アクタヴルム
変わるしかないんだ。
アクタヴルム
いつかきっと来るさ、そんな世界が。
ルシアンの肩と腕をしっかりと、掴み一歩ずつ前へと進む。その先は、言葉を余り交わさなかった、が確かに思いは繋がった。異種族間を通して、見る世界は大きく違うだろうが、意思は通じ合えたのだ。


安全な場所まで、ルシアンを移動させた後、別れ際にアクタヴルムはこう残した。
アクタヴルム
願わくば、再度相見えん時味方で在ることを祈る。
彼が去った後も、ルシアンは遠くを見つめて交わした言葉を反芻し、噛み締めていた。

ルシアン
人も、世界も、天使も、皆変わらなければならない。
ルシアン
…願わくば、再度相見えん時味方で在る事を祈る…か。
ルシアン
あぁ。貴方達は…本当に。
それは、今の自分では許容量を超えているからと、
思考を放棄するかのように一人、目を閉じた。
暗い暗い海の水底、泡沫が舞い散る闇の中。
少女が一人、何かに腰掛けている。
幼気で、奇妙で、可愛げで、心躍る彼女は心底笑顔だ。
ここからは、ここで語るべきではない彼の物語。
私達の物語と彼らの物語は、繋がれてまた交差する。
あぁ…その時は、味方であらんことを。
あはっ…アハハハッ…
無邪気な笑い声が、誰も知らぬ深海に響いた。

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