桃side
あのあと莉狗は、真っ先に流斗の部屋へ行った。
急いで莉狗を追いかけたものの、流斗の部屋に
ついたころには既に話しかけていた。
困惑したような表情を見せる流斗と、諦めたような笑みを浮かべた莉狗。
俺らが部屋に入りさらに困惑する流斗は、莉狗の顔をじっと見つめて言った。
名前を呼ばれても表情を崩さない莉狗を見れば1発でわかる。
コイツは、もう一度やり直そうとしていた。
いつもの敬語が震え、弱々しく聞こえた。
今まで聞いた言葉よりずっとずっと丁寧に聞こえた。
あの頃の、流斗はどこへ……
そう、返事をしたものの、明らかに元気はなかった。
本当に、諦めていた。
何が、思い出せるだよ
もう、忘れちまったじゃねーか
失った記憶?取り戻せる?どうやって。
お前なんか、お前なんかに……
涙を流しそうな流斗を見て、ハッとした。
何を考えているんだ、俺は。
その瞬間、莉狗の考えることがわかった気がした。
……あぁ。
彼は一体、何をしたというのだろう。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。