第2話

セッション練習
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2020/09/07 06:40
4月半ば。
新入部員のパート割も決まり、フルートパートは新たに2人のメンバーを迎えた。
内田 桜音(うちだ おと)
じゃあ、自己紹介ってことで!
私は、パートリーダーの、内田桜音です!
お願いします!
川岸 香奈(かわぎし かな)
うち、3年の川岸香奈!
よろしくね!
春宮 こころ(はるみや こころ)
私、2年の春宮こころです。
よろしくお願いします。
山部 ゆか(やまべ ゆか)
今日からお世話になりますっ!
山部ゆかです!
あっ、ゆか、アルトサックスの先輩、めっちゃタイプなんですよね~
あんなイケメン初めて見ました~!
内田 桜音(うちだ おと)
あっ、そうなんだ…苦笑
まぁ、ゆかちゃんはこの辺で!
よろしくね!
山部 ゆか(やまべ ゆか)
よろしくお願いしますっ!!
片桐 香織(かたぎり かおり)
片桐香織と申します。
これからお世話になりますが、よろしくお願いします。
内田 桜音(うちだ おと)
じゃあ、今日からこの5人で頑張りましょう!
思った以上に個性の強い後輩たちに戸惑いつつも、桜音は、これからが少し楽しみになった。

1年生2人、2年生1人、3年生2人。
これだけいれば、コンクールも人数は大丈夫!

コンクール、頑張るぞ~!!
っていうか、ゆかちゃん、健のことタイプっていってたよね!?

そこは共感できない~…!!
まみ先生
みんな、自己紹介はできたみたいだね。
じゃあ、早速だけど、1年生も合奏に入ってみようか!
山部 ゆか(やまべ ゆか)
先生!
ゆか、soli吹きたいですっ!
えっ、ゆかちゃん?

1年生にしていきなりそんな事言うのは、いくら何でも…

っていうか、周りの目とか、気にならないのかな…??

みんなもざわざわしている。
まみ先生
あ、えっと、ごめんね。
そこは、桜音が吹くことになってるから、また_
山部 ゆか(やまべ ゆか)
えー!
いいじゃないですか!
今だけですよっ!
まみ先生
そっか、じゃあ、今だけ特別ね?
いいよね?桜音。
内田 桜音(うちだ おと)
あっ、はい!
先生優し過ぎだよ。
まぁ、いっか。笑

この子すごいなぁ。
度胸ある。
まみ先生
じゃあ、いってみよう!
初心者の子は聴いててね~!
ゆかちゃんがsoliのメロディを奏でる。

あぁ、やっぱりこういう積極的な子は、演奏も積極的だなぁ。

ビブラートからも、自信の大きさが感じられる。

それに応えるように、健がアルトサックスの音を絡めていく。

ゆかちゃんの音に動揺が見えた。

そっか、ゆかちゃん、健のことタイプって言ってたもんね。

いいなぁ。
そういう人とのsoliなら、想いも込められるんだろうな…
その日の練習が終わってから、健が私のところに来た。
鍵谷 健(かぎたに けん)
おい。
内田 桜音(うちだ おと)
何?
鍵谷 健(かぎたに けん)
何?じゃねーだろ。
練習するぞ。
そう言って健は、私をおいて隣の部屋にすたすたと歩いていった。

練習しなきゃ…

だって私、全国目指してるんだもん。

練習しなきゃ!!

はぁ、行かなきゃ…

私は、いやいや健のいる部屋に向かった。
鍵谷 健(かぎたに けん)
遅い。
内田 桜音(うちだ おと)
ごめん。
さっさと終わらせよ?
鍵谷 健(かぎたに けん)
そのつもり。
そっちから勝手に出ろ。
私は、最初のメロディを吹いた。
特に、何も考えずに。
ただ、楽譜に書いてあるものをそのまま。

健も、気持ちのない音を、ただ並べていく。
鍵谷 健(かぎたに けん)
ま、いいんじゃね?
内田 桜音(うちだ おと)
うん。
まぁ、タイミングと音程はいいと思う。
機械的な演奏としてはほぼ完璧かなって感じ。

でも…人を感動させられる音楽には程遠い。
鍵谷 健(かぎたに けん)
今日さ、
内田 桜音(うちだ おと)
うん、
鍵谷 健(かぎたに けん)
ゆかちゃん…だっけ?
その子と吹いてる方がよっぽど良かったよ。
ほんとに変わってもらえば?
内田 桜音(うちだ おと)
……まぁ、そうだろうね。
か、帰るね。
そっか、そうだよね。
私もそう思ったよ。

あー、もーいー!
どーでもいい!

健なんて大嫌いだよ。
あんなやつ…
なんで、なんであんなに酷いこと言うの…?

気づいたら、泣いていた。

泣きながら、とにかく走った。
健から逃げた。


その背中を見ながら、健は1人で呟いた。
鍵谷 健(かぎたに けん)
信じるなよ。
もう少し自信持てバカ。

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