バタンッ。
もう、この家には帰らない。
私はそう決めた。
両手に持った、大きなカバン。
私の服や洗面道具、スマホ、財布など、私の物は全て入っている。
もう、振り返らない。
前だけ見て歩いていくって決めたんだ。
私は、拳を強く握った。
…にしても、これからどうしよう。
学校はもう終わってるだろうし、行くあてもない。
友達の家に泊まるって言っても、どれくらいそれが続くのか分からないから、迷惑でしかないし。
う~ん、これは困ったな。
お金はあるけど、毎日ホテルに泊まれるほどじゃない。
自虐的に笑う。
考えが浅すぎた。
あの家からおさらば出来たのはいいけど、泊まるあてもない。
大きく伸びをした時…
ゴンッ。
伸ばした手に、固いものが当たった。
声がして、思わず振り向くと…
私の後ろに、謎のイケメンな男子が立っていた。
私が伸ばした手は、恐らく彼の額に当たったのだろう。
私は咄嗟に謝った。
彼が首を傾げた。
いや、何このイケメン。
本人は絶対そんなつもりないと思うけど、あざとい、あざとすぎる。
この人、分かって言ってる。
いや、めっちゃ色々言われたけどね。
てか、もう聞かないんだな。
私が家出した理由。
臣くんが…優しく微笑んだ。
その顔は、夕焼けに彩られ、とても綺麗だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。