第20話

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2025/08/09 10:07 更新













獪岳
 あの日の先生の言葉を真に受けた訳 
 じゃあるまいし、お前とうとう気で
 も狂ったか?
あなた
 あはは、そうだよね…冗談だよ 
獪岳
 はぁ…。びっくりさせんじゃねぇよ 

 先ほどは結婚のことを“ 死ぬよりマシで幸せ ”と
 言ってくれていたのに、手のひらを返したような
 発言に私は苦笑いをするしかなかった。

 獪岳のことだから、二つ返事で了承するか或いは
「ばかなこと言ってんじゃねぇ」と一蹴されるかだ
 と思っていた。そのため、気狂いを疑われたとい
 う事実に、あわよくばを期待した私は恥ずかしく
 なった。

 だから獪岳の言った言葉に甘えて、気づいてしま
 った感情は私が正気じゃなかったとうことにして
 振る舞う

 自分の気持ちを冗談の二文字で片付けるのは少し
 だけ心苦しかった。
獪岳
 明日は朝早くにここを出るから俺は 
 もう寝る。話、聞いてくれてありが
 とな。
獪岳
 あと…さっきの発言はなかった事に 
 してやる。いくら雷家の一人娘だと
 しても物事には限度がある。

 この世界に来てから、獪岳の感謝の言葉を初めて
 聞いた。それが嬉しくもあり気まずくもあり、私
 はどこか居た堪れない気持ちになる。

 だがその言葉に続くたしなめるような言葉は、私に耳を
 塞ぎたくなるほどの恥ずかしさを植え付けた。
あなた
 本当にごめん、どこか正気を失って 
 たみたい…
獪岳
 まあバカが言うことやることは大概 
 バカな事だから仕方ねぇけどよ、
 俺がいないところで先生に迷惑かけ
 ることだけはするな
あなた
 うん 

 止まらない獪岳のお小言に対して、私は二文字の
 返事だけ呟いた。

 そこから自分の部屋に戻るまでは今日の失態と、
 一時の感情で原作を変えようとしてしまった後悔
 が頭を巡っていた。

 明日からの一週間とちょっと。獪岳がこの家に居
 ないと思うと寂しいような安心するような…複雑
 な感情はどこに発散すればいいのやら

 布団に入ってから、もどかしさを消化したかった
 が、そうする前に眠りに落ちた。





 _______明け方




 物音で目が覚める。寝ぼけ眼を擦って辺りを見渡
 してもそこには何もなかったので、もう一度眠り
 に就こうと目を瞑ったとき
桑島
 くれぐれも気をつけて行ってくるんじゃぞ 
獪岳
 先生、俺はもう小さい子供じゃないですよ。だか 
 ら心配しないでください。必ず最終選別を生き残
 って帰ってきます。

 そんな会話が聞こえてきた。あぁそうか、もう出
 発するのか…
あなた
 !! 

 私は思い切り襖を開けて、玄関より近い縁側から
 草履を踏みながら飛び出した。
あなた
 獪岳っ! 

 屋敷の門を潜ろうとしていた獪岳の背中を見つけ
 て思わず名前を叫んだ。獪岳は怪訝そうな顔をし
 てゆっくりと振り向く
獪岳
 朝っぱらからデケェ声だなァ 
あなた
 だってまさか見送れないかもなんて 
 思わないじゃん!
獪岳
 だからってそんな格好で外へ出ると 
 風邪ひくだろ
獪岳
 …いや、バカは風邪を引かないか 

 獪岳はくつくつと喉を鳴らして笑う。それは昨日
 の思い詰めた表情を浮かべていた人とは似ても似
 つかない笑顔だった。

 こういう状況ではなんて言うんだっけ…

 記憶を手繰り寄せる
あなた
 ご武運を…!! 

 その言葉は原作で藤の花の家のお婆さんが言って
 いた台詞だった。
獪岳
 おう 

 獪岳は屈託のない笑顔を浮かべる。

 でも、私の胸は苦しくなる一方だった。







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