第10話

じゃがいも ―期待に応えた、その先の空虚
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2026/02/19 11:45 更新


将来なんて考えたくない。



そこは、広大なジャガイモ畑。
畑の真ん中で芽を出したじゃが子ちゃんは、
いついかなる時もご主人の望み通りに育ちました。

『そろそろ芽出ないかなあ』と言われれば翌朝に芽を出し、『育ちが遅いなあ』と言われれば必死に葉を伸ばしてきました。
そうすれば、ご主人が褒めてくれるのです。
ご主人から褒めてもらえるのが嬉しくて、じゃが子ちゃんは毎日毎日着実に、言われた通りのことをしました。

周りのジャガイモたちも、じゃが子ちゃんのことを尊敬していました。
「じゃが子ちゃん、すごいね」
「私は早く大きくなれって言われてもできないもん...言われたことちゃんとできるのすごいよ」

そんなある日のこと。
ジャガイモたちは、将来何の料理になりたいかみんなで話し始めました。
「やっぱり王道はじゃがバターだよね」
「え〜私はグラタンかなあ」
「迷っちゃうよねえ」
みんなでワイワイ、楽しそうです。
じゃが子ちゃんには、何が楽しいのか全く理解できませんでした。

「ねえ、じゃが子ちゃんは何になりたい?」
「じゃが子ちゃんいつもめっちゃ頑張ってるから、何にでもなれそうだよね〜」

「私...?」

「私って、何になりたいんだろう...?」





月日が経ち、ジャガイモ達は土の下で立派なイモを作り始めました。
かつて将来について談笑していた友達たちは、立派なジャガイモになって誇らしげにしています。

一方で、あんなに毎日頑張っていたじゃが子ちゃんのイモは、人並みの大きさでした。


「私って、なんのために頑張ってるんだっけ...?」
そう思ったあの日から、じゃが子ちゃんは頑張るのをやめてしまったのです。


不意に視界が明るくなり、じゃが子ちゃんは他のジャガイモたちと一緒に箱に詰め込まれました。
収穫されたんだ。
じゃが子ちゃんはそう思いました。

土を払われ、露わになった自分の身体。

普通だ。
小さい頃、ご主人に褒められていたのが嘘のように。

大きくなった友達の間に挟まれる小さな自分から逃げるように、じゃが子ちゃんは目を閉じ続けました。

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