前の話
一覧へ
次の話

第61話

#60 青春をこじらせた〈最終回〉
755
2026/05/29 13:00 更新







閉店後のカフェ。



照明を少し落とした店内に、

コーヒーの香りだけが

静かに残っている。



カウンターに並んで

座る俺たちの前には、

湯気の立つマグカップ。



jk「…あの時思えば、
 だいぶ拗らせてたよね」



ぽつりとこぼした言葉に、

テヒョンが横で首を傾げる。



v「何をこじらせてた?」

jk「恋愛。俺とテヒョンの」



そう言うと、

なんだか少し恥ずかしくなって、

視線をコーヒーに落とした。



思い出す。

あの頃の自分。



テヒョンの一言一言に

振り回されて、

勝手に期待して、

勝手に落ち込んで。

嫉妬してるのも認められなくて、

好きだって言うのも怖くて。

ついには熱まで出して、

本当に、どうしようもなかった。



jk「…弱虫だったし」



そう呟くと、

テヒョンは小さく笑った。



v「…そんなジョングクを
 好きになったんだよ」



その声は、昔と同じで、

でも少しだけ大人になっていて。



俺は思わず、

顔を上げる。



v「…今はさ」



テヒョンが続ける。



v「こうやって笑って話せるけど、
 あの時は必死だったよな」

jk「…うん」

v「でもさ、あれも全部、 
 必要だったんだと思う」



テヒョンはカップに

口をつけて、一口飲む。



v「“おとなは、だれも、
 はじめはこどもだった”ってさ」



ふいに出てきた言葉に、

俺は瞬きをする。



jk「…なんか、テヒョンらしくない」

v「はは、だろ?引用」

jk「誰の?」

v「サン=テグジュペリ」

jk「あ、“星の王子さま”」



自然と笑みがこぼれる。



jk「俺、あれ好きだよ」

v「どの話?」



少し考えてから、

答える。



jk「呑み助の星の話」



テヒョンが“へえ”と

興味深そうにこっちを見る。



jk「“酒を飲むのが、
 恥ずかしい”ってやつ」

v「うん」

jk「あれさ、ほんとは…
 過去を忘れたいんじゃないかって
 思うんだよね」



言葉にしながら、

自分でも少し納得する。



jk「だから俺もさ、あの頃のこと、
 思い出すとちょっと恥ずかしくて」



小さく笑う。



jk「…拗らせすぎてたなって」



すると、

テヒョンはゆっくり

首を横に振った。



v「恥ずかしいって思う必要ないよ」

jk「え?」

v「俺は好きだったけど。
 あの頃のジョングク」



まっすぐな視線に、

言葉が詰まる。



v「全部ひっくるめて、
 今のジョングクだろ?」



少しだけ照れくさそうに

笑うテヒョン。



v「それにさ」



カウンターに肘をついて、

少しだけ俺の方に近づく。



v「…あれ、駆け引きだったんだよ」

jk「駆け引き?」

v「俺たちなりの」



その言葉に、

思わず吹き出す。



jk「え、どこが」

v「全部」

jk「嘘だ」

v「ほんと」



くだらないやり取りなのに、

やけにあたたかくて。



気づけば、

俺は笑っていた。



しばらくして、

店内に静寂が戻る。



外はすっかり夜で、

ガラス越しに街の灯りが

滲んでいる。



テヒョンが、

そっと俺の手を取る。

昔と変わらない、

でももう迷いのないその手。



v「なぁ、ジョングガ」

jk「ん?」

v「これからもさ」



少しだけ、

声が柔らかくなる。



v「拗らせながらでもいいから、
 一緒にいような」



その言葉に、

胸の奥がじんわり熱くなる。

俺は、しっかりと

その手を握り返した。



jk「…うん」



少しだけ間をあけて、

続ける。



jk「もう拗らせないように、
 ちゃんと好きって言うけど」



そう言うと、

テヒョンはくすっと笑う。



v「それはそれで寂しいかも」

jk「なんでだよ」

v「面白かったから」

jk「最悪」



笑い合う声が、

静かな店内にやわらかく響く。



あの頃の俺たちは、

きっと不器用だった。

遠回りして、傷ついて、

それでも手を離せなくて。



だけど今ならわかる。

あの時間も、

あの感情も、

全部____

ここに繋がっている。



目の前で笑うこの人と、

同じ時間を重ねていくために。



カウンター越しに、

テヒョンが軽くキスを落とす。



v「…愛してる」



その一言に、

少しだけ照れながら。

俺も、ちゃんと返す。



jk「…俺も」



コーヒーの香りに包まれながら、

俺たちの時間は、

これからも続いていく。



終わりじゃなくて、

ここから先もずっと。



__青春を、拗らせたままでもいい。




















end.

プリ小説オーディオドラマ