朝…玄関を開けてすぐ…
僕は思わずカラッとした笑い声を
あげる。
奏太は、いつも僕の上を行き
色々な愛情をくれる。
たまに恥ずかしくて、素直に喜べない
ことの方が多いけど…
奏太のしてくれることは、本当は
全然嫌じゃないんだ。
人前で手を繋ぐとかは、恥ずかし
すぎてできないけど、奏太と手は繋ぎたい。
これは、精一杯の僕からのわがままだ。
ギュッ…
奏太の冷たい手を握った。
奏太は、僕を横目で見ながら
ハハっと、おかしそうに笑った。
奏太は、「何だそれ?」と言いながら
歩き続ける。
路地に出たら、たくさんの
学生や自動車が通ってるから…
名残惜しくも、手を離そうとする
僕は、手を振り払ったのだが、奏太は
ガンとして、手を離してくれない。
奏太は、後ろを振り替えると
ニヤッと笑った。
僕も慌てて振り替えると
後ろには、サラリーマン1人に
おじいちゃん…それに中学生のカップルなど
けっこう人が歩いていて…僕はその場で
石のように固まる。
奏太は、僕の頬を軽くつねると
かがみながら…
などと、子供の発表会に来た
父親みたいな言い方で、僕をからかっている。
つい、言葉が止まらなくなって
奏太に強く当たってしまう。
そう言ってるうちにこの道を使ってる人は、
僕と奏太しかいなくなっていた。
奏太は、前を向くと
僕より先を歩き出した。
笑いながら、手を差し出してくる奏太。
不意打ちの、振り返りの口づけは
突然すぎて…頭の中が真白になった。
でも、これが奏太なりの
僕へのわがままなら、ちょっと
嬉しくないことも、ないかもしれない。
奏太のニットを、引っ張り
照れながらも、僕の気持ちとは
うらはらに、口元は緩んでいた。
本当、僕は天邪鬼だ。
そういえば、冬樹はどうやら
牙崎と付き合ってるのかは、不明だけど、
明かに最近仲が良すぎて
僕の方が2人の間に居づらい時が、
あるぐらいだ…
始まったばかりだった高校生活も
今や、半年が過ぎ…最初奏太と再開した時は
「運命の相手」なんて言われて
困ってしまったけど、今では
これは、子供の時から決まっていた
事だったんじゃないかなんて思うんだ。
ああ、最悪だ。なんでこんな奴が
僕の好きな人なんだろう。
頭おかしいでしょ…
そう思いながらも、僕は奏太の事が
大好きだ…
好きの形は、けして同じとは限らない。
僕たちだって最初はそうだったように。
END
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!