第42話

後悔しないために
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2020/10/22 11:39
樹と気まずくなってから10日くらいたったけど、気分は最悪なままだった。


『暴走族じゃなければよかったのに』


あんな言葉、言いたかったわけじゃなかった。


でも、どうしてもお母さんのことがグルグルして、思わず言ってしまった。


樹たちのこと、本当に好きだと思う。


信頼もすごくしてる。


だからなおさら、彼らが暴走族じゃなかったら、何も後ろめたくなく仲良くなれたのかなと思ってしまう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹、怒ってるよね
樹は暴走族っていうのを、色眼鏡で見られるのをすごく嫌がってるのに。
倉木(なまえ)
倉木あなた
嫌われちゃったかな
口に出してみると、予想以上に胸がズキズキする。


嫌われたくない。


またあなたって呼んで欲しい。


あの時はふざけてるって思ったけど、ゴリラとかなんやら、バカにし合って笑い合ったのも本当に楽しかった。


放課後、こうやって1人になるのは大丈夫なはずだったのに今は物足りなくて。


家でも、ここ10日間は全てがつまらなかった。


こうやって待っていたら、「早く来い」って呼びにきたり、とか。


ふと携帯を見たら、【今日は夕飯4人分追加な】って樹からメールが来たり、とか。
倉木(なまえ)
倉木あなた
しないかな……
バカだな、私。


そんなこと考えていたら、気づけば教室に1人。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……帰ろう
待ってても、彼らが来てくれるわけではないし。


机に出しっぱなしにしていた教科書を片づけていると、
倉木(なまえ)
倉木あなた
あれ、これって
1冊のノートが間にあった。


ところどころ盛り上がった、古いノート。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……お母さんのだ
昨日、教科書が変わるからって荷物を整理した時の紛れちゃったのかな。


何が書いてあるんだろう。


いつも明るかったお母さんの、弱音の吐き出しものだったらどうしよう。


そう思ったら、ずっと読めずにいた。


でも、それは私の予想とは違ったものだった。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……アルバム?ではないけど……
中には、幼い頃の私の写真が数枚と、お母さんの手書きのメモ。


箇条書きのように、その日あった出来事が書かれていた。


私の泥だらけの写真。その下には……。


【あなた、かけっこで1位!】


と書かれていた。


っていうか、かけっこで1位になりながら泥だらけって。


私ってば何したんだろう……。


ページを次々とめくり、目を通す。


そして最後のページをめくろうとした時。


私の手が止まった。


端っこに書かれたお母さんの文字。





【あなたは宝物で、私はあなたが大好きです。だから、あの人に出会ったこと、後悔してません】




私は無意識にその文字をなぞっていた。


後悔してないって、力強く書かれた文字。


私、何をやってるんだろう。


本当にこれでいいのかな。


……RAMPAGEから目をそらしたままでいいのかな。


もしもこのままお母さんのことを言い訳にして、樹たちから離れてしまったら、私、絶対後悔する。







青山陸
青山陸
……あなたちゃん
人が感極まってる時に、おかまいなしに教室に入ってきたのは陸くん。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……何か用?陸くん違うクラスでしょ
青山陸
青山陸
冷たいなぁ、俺のクラスが追試用の教室になっちゃったから追い出されたの
倉木(なまえ)
倉木あなた
なら早く帰れば?
青山陸
青山陸
じゃあ一緒に帰ろうよ
……どうしてそうなる。


この10日間、私のまわりに人がいなくなった時を狙って声をかけてくるの、絶対わざとだよね?
青山陸
青山陸
……そろそろ、答えが出たかなって思ってね
いつもそのセリフ言ってくるね。


昨日まではグルグルと悩んでいた。


けど私、決めたんだ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
私さ、ちゃんと向き合うことにした
青山陸
青山陸
……それって、あの暴走族とこれからも仲良くするってこと?
倉木(なまえ)
倉木あなた
そう
仲よくするというか、今まで通りに戻りたいと思った。
倉木(なまえ)
倉木あなた
私、どこかお母さんのことを言い訳にしてたんだと思う。もうとっくにRAMPAGEのことを大切に思ってるのに、何か踏み出せずにいたんだと思う
壱馬はどこか性格も笑顔も黒いし、


北人はチャラくて発言が変態。


慎はいつもふてくされてて、


翔平なんてうるさいしバカだけど。


みんなの輪の中は居心地がよくて、気づけば笑ってることが多かった。


樹のことも……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
RAMPAGEは暴走族だからって考えちゃって、ずっとモヤモヤしてて。暴走族じゃなかったらいいのにな、なんて思っちゃったりもした。でも私、俺様な樹もたまに優しい樹も、私が元気ないってすぐに気づいちゃう樹も知ってるから。総長の樹も樹なら、私は……
私は、そのすべてが樹で、そのすべてがなきゃ樹じゃないと思う。


その1つでも欠けた樹といたいなんて、思わない。


やばい……、気持ちが高ぶっちゃって涙が出そう。


うっすら鼻声になったけど、私は止めなかった。


……あぁ、どうしよう。


今、とてつもなく樹に会いたい。


そしてちゃんと伝えたいの。
青山陸
青山陸
あなたちゃん、正義の塊みたいだったのに変わったよね
倉木(なまえ)
倉木あなた
そー?陸くんもたいがいだと思うけどね
なんか少し泣きそうになってしまったことが悔しくて笑ってみせる。


私のその下手な笑顔を見てか、陸くんの眉間にシワがよる。


そして、
青山陸
青山陸
やっぱりあなたちゃん、1回元の学校に戻ろう。頭を冷やすべきだ
そう言って私の腕を掴んだ。
青山陸
青山陸
今日、ちょうどあなたちゃんのお父さんと会う約束があるから。一緒に行こう
倉木(なまえ)
倉木あなた
いや、ちょっ……
__バンッ!


思いっきり身を引こうとした時、教室のドアが乱暴に開いた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、樹……?
そこには少し息を切らした樹が。


なんでそんなに焦って……?


樹は無言でズカズカとこちらに向かってくると、そのまま陸くんの腕を掴んで、私から遠ざけるように軽く突き飛ばした。
青山陸
青山陸
……いって
藤原樹
藤原樹
……お前が陸?
樹は陸くんを睨む。


けど、次の瞬間にはもう目は逸らしていて、
藤原樹
藤原樹
ま、どうでもいいや。俺は、あなたに用があるから
その視線は私へ。


腕が解放されて少し安心する。


……来てくれたんだ。


私、樹に言いたいことがあるの。


……謝らなきゃ、と思っていたの。
藤原樹
藤原樹
あなた
藤原樹
藤原樹
俺らこれだけ言いに来たんだ
そう一呼吸おいて、樹は言った。
藤原樹
藤原樹
あのさ、これまであなたが見てきた俺、全部が俺だから。あなたとくだらねぇ話してんのも、アイツら4人とバカやってんのも……。そしてRAMPAGEの総長も、俺だから。全部を、俺として見て欲しい。あなたが大切だから。俺は、お前のこと絶対に諦めねぇから
樹はゆっくりとそう言い終わると、合わせていた目を照れたようにそらした。
藤原樹
藤原樹
……つって、まぁそれだけなんだけど
これを言いたかったんだ、と言われ、なんか私まで照れてしまう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……陸くん
私は呆然と立っている陸くんに、お母さんのノートを押し付けた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……これ、お父さんに渡して。最後の文字をこの文字のまま伝えたいから
倉木(なまえ)
倉木あなた
あと、私の事、もっと知ってから来いって言っといて。あと30年くらい勉強してから!ってね
今は、このまま樹といたいってこと。


陸くんは私の押し付けたノートを受け取ると、はぁ〜、と長いため息をついた。
青山陸
青山陸
やだやだ。何を好んで俺は妹のラブシーンを見なきゃ行けないわけ?
藤原樹
藤原樹
は?妹……?あなたの、兄貴か?
倉木(なまえ)
倉木あなた
ちがう!いとこ
藤原樹
藤原樹
……いとこ?
倉木(なまえ)
倉木あなた
と言っても、私は最初全く気がつかなかったし、十何年ぶりだったけど
青山陸
青山陸
……あなたちゃん、あなたちゃんは強くなったんだね。これは、お父さんに渡しとくよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
え……
意外とあっさり引き下がったことに少し驚く。
青山陸
青山陸
俺はあなたちゃんのお父さんに頼まれたから来たけど、正直、俺も心配してたっていうか。あなたちゃんって頑固だよね?1度答えを出したあなたちゃんの気持ちは変わらないんだろうなって。いいお土産もできたし
陸くんはそう言って、教室から出ていった。


きっと陸くん、本人もそう言ってた通り心配もしてくれてたんだと思う。


私が、いくら悩んでも答えが出せないくらいなら、お父さんの所へ行った方がいいって考えてくれたのかもしれないし……。


そう考えると、悪い人ではなかったのかな?


結構イライラしたことも多かったけど!


……けど、今回のことで本当にはっきりしたの。


私がどうしたいか……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
藤原樹
藤原樹
……なんだよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹、私も同じこと思ってたよ
藤原樹
藤原樹
ん?
倉木(なまえ)
倉木あなた
今の樹が樹で樹だから、私は……樹は樹だと思う!
藤原樹
藤原樹
お前、本当に特待生か?
だってほら、なんかしんみりしちゃったし。


思ってること、そのままにしたらそうなっちゃったんだもん。
藤原樹
藤原樹
……まぁいっか。語彙力ねぇの、なんかあなたって感じするもんな
倉木(なまえ)
倉木あなた
……失礼すぎ
藤原樹
藤原樹
だって本当のことだろ。……帰るぞ
樹はそう言って、私の手を引いた。


私に背を向けて、1歩前を歩く樹。


あぁ、どうしよう。


心臓が、すごくうるさいよ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ありがとう、樹……
その手の温もりが移ったかのように、胸が温かくなった。

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