結論からいうと、私は無事に元の世界に帰って来ることができた。
気がつくと病院のベットの上で、両親や友人が泣いて喜んでいた。
どうやら私はあの肝試しの日からまるまる一ヶ月間行方知れずになっていたらしい。
トンネルから出て来た友人たちは車に私の姿がないことに気付き、慌てて警察に相談し、地元の人や警察が懸命な捜索を続けるも一向に見つからなかったらしい。
もう駄目だと諦めかけていたとき、あのトンネルの方から鈴の音が聞こえてきたという地元住民が様子を見にいき、トンネルの前で倒れている私を発見した――ということらしい。
友人たちが無事で心の底からほっとして、みんなで抱きあって泣いた。
両親もひどくやつれているようにみえた。本当に、本当に心配をかけてしまったようだ。
自分一人だけ戻ってきてしまった。
おにいちゃん……宵くんはあの異界と一緒に消えてしまったんだろうか。
ふとベッドサイドの台を見ると、一枚の写真が置かれていた。
それはあの時、彼が私に渡してくれたものだ。
無意識に握りしめていたのか、かなり皺がよっていたけれどきちんと持って帰って来られたんだ。
彼は私と一緒に帰って来られたんだ。
この写真と一緒に、みんなの記憶の中に宵くんは戻って来た。
でも、この世界に彼はいない。
私はそれがたまらなく辛くて、悲しかった。
写真を握りしめ涙を流す。
蹲る私の背中をお母さんは優しく撫でてくれた。
どれだけ願っても宵くんは私の前に姿を現すことはなかった。
喪失感を抱きながらもあっという間に時は流れ、半月後私は無事に大学に戻ることができた。
*
友人と別れ、帰路につく。
元の世界で過ごす時間が増えるほど、私の中から少しずつ異界で過ごした記憶が消えていくのがわかる。
その度に私は宵くんが渡してくれた写真を見返した。
あの異界での思い出。彼と交わした約束を何度でも自分に刻み込む。
私が覚えている限り、彼が消えることはないはずだから。きっと彼は約束を守ってくれる。
だって、絶対一緒に帰ろうと約束したんだから。
大学と自宅アパートの丁度中間にある駅。
そこの近くの駄菓子屋さんでアルバイトを募集しているという話を聞き、面接にやって来たのだ。
異界で彼と過ごした駄菓子屋。
同じ場所にいれば、きっと記憶が薄れることはないと考えた。
趣ある店構えに見惚れて店先で立ち止まっていると、中から店員さんらしき人が現れた。
私より少し年上の、優しそうな青年だった。
お兄さんは不思議そうな顔で私の名前を復唱する。
少し立つとはっとした顔をして。信じられないというように私を見つめてくる。
戸惑いがちに彼は自分のことを指さした。
その瞬間、私の頭の中に色鮮やかに記憶が蘇る。薄れかけていた異界での記憶が全部。
ああ、そうだ。この人は。彼は――。
照れくさそうに笑う彼に、私は驚いて詰め寄った。
異界にいたマヨイくんが成長し、一人の大人として私の前に立っている。
身長は大分伸び、目線は高くなっている。
大人びてはいるが優しそうな顔立ちは、かつての面影を十分に残していた。
宵くんは悪戯っぽく笑いながら私を店に入るように促した。
頭の整理がつかないまま店内に入った私は、再び言葉を失うことになる。
店の奥にいる強面の男性。
派手な柄シャツにサンダル。そしてツンツンの金髪にサングラス。間違いないこの人は――。
ニヒルな笑みを浮かべているのはオオガさんだった。
顔を見合わせて微笑む二人。
異界の時とその関係性は変わっていなかった。
衝撃の事実に私は驚きを通り越して嬉しい涙を流す。
あのオニたちもちゃんと帰るべき場所に帰れたんだ。
よかった。本当によかった。
にやりと笑い、宵くんは私の名前を呼んだ。
宵くんに腕を引かれた。
私はバランスを崩し、彼の胸に飛び込む形になる。
その告白に私の目から一筋涙が零れる。
心の中が温かくなって満たされていく。
返事を尋ねられなくても、私の答えはもう決まっていた。
オオガさんは呆れたように店の外に出て、遊びにきた小学生に「今日は休みだ」とぶっきらぼうにいいながらシャッターを下ろした。
外から小学生とオオガさんが楽しそうにじゃれあう声が聞こえるが、店の中はしんと静まり返っている。
二人きりの店内で私たちはこれまでの時間を埋めるように、ずっと抱きしめあっていた。
宵くんはとても幸せそうに微笑んで、その顔を近づけてくる。
私は目を閉じて、そのまま彼に身を委ねたのだった。
異界での不思議な出来事は幕を閉じ、私たちは元の世界で動き出す。
いつかあの異界で過ごした記憶が全て消えたとしても、今私たちは一緒にいる。
きっとこれからもずっとみんなで同じ時間を過ごしていくのだろう。

















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。