小さな帰りを知らせる声がリビングに響く。
しかし当たり前のように「おかえり」と笑顔で迎えてくれる顔は出てくる気配を示さない。
上着をクローゼットにしまう。
電気は消えていたがシャワーに入っている様子も無い。
寝室だろうか。
幾分かスッキリした頭でタオルをかけて脱衣所を出る。
時刻は午後11時。
普段のあなたの下の名前なら2時くらいに帰ってくることが多いから大分早い帰りだっただろう。
一緒に帰れなくて残念....
布団をめくる。
しかしそこにいつもの寝顔は無かった。
月が綺麗な夜。
いつも通りお客さん達に夢を与えた後、ロッカーの前でネクタイを解きながらため息を着く。
表情筋のやたら浪費する仕事だから。
夜の冷えた空気が肌に刺さる。
繁華街をさっさと出ようと足を早めた時。
キャッチかよ。きっしょ。
しかもよく見るとアイツうちで働いてる奴じゃん。
後ろに数名隠れているのが目に付いた。
そして2人を守らんとするないこはこんなの見た事無かったらしく、目が少し涙でうるんでいるように見えた。
別に俺は優しくない。
気分。ただそれだけ。
それだけで声をかけた。
それなのにまるで救世主が来たかのように明るくなるないこ。更には一緒に帰ろうだなんて。
どうせあれだろ?
お前らもキャバとか行く予定だったんだろ?
伸ばしたアイツの白い手を振り払った。
呆然とする顔を見ないように、闇に紛れた。
やたら1人では広いベッド。
「帰る」と言った筈なのにあなたの下の名前はどこにも居ない。まさか彼女とか居るのかな。俺に飽きたからかな。
そうやって嫌な想像をしては目が涙でいっぱいになる。
誰にも聞かれてない筈なのに1人で声を抑えて泣く。
あなたの下の名前の為ならなんでもするのに。
少し離れて駅前。
トイレに入って鍵をかけるとスマホを取り出した。
小さな犬のチャームが揺れる。
迷いもなくあるひとつの番号に電話をかける。
数回コール音が鳴った後、出てくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。