舞踏会の翌朝
セレスティア家は、いつも通り静かだった
昨日の華やかさが嘘みたいに、
廊下には足音だけが響く
私は書斎へ向かっていた
父に呼ばれている
理由は分かっている
舞踏会での振る舞い
ラグーザ家との距離
全部、報告の対象だ
扉の前で一度だけ深呼吸をする
それだけ
何も特別なことはしていない
扉を叩く
重たい声
部屋に入ると、父は書類から目を上げた
一瞬、胸がざわつく
少しだけ考える
思い出すのは、あの視線
嘘ではない
でも全部でもない
父はしばらく黙る
それで会話は終わった
いつも通り
完璧なやり取り
でも
部屋を出た瞬間、小さく息を吐く
ただの敵
それ以上でも以下でもない
なのに
庭へ向かう
静かな空気
風が頬を撫でる
ベンチに腰掛ける
目を閉じると、自然に思い出す
赤い瞳に低い声
名前を口にする
それだけで、胸がざわつく
初対面なのに
不思議だ
そのとき、足音が近づいた
立ち上がる
決められた時間
決められた行動
ふと空を見上げる
それが当たり前
それが正しい
そう教えられてきた
でも
昨夜、あの人は言った
どうしてあんな言い方をしたのか
まるで、
何かを共有しているみたいに
そう言い聞かせる
一方
ラグーザ家
サーシャは屋上にいた
壁に背を預け、目を閉じている
目を開ける
それだけ言って黙る
頭の中には、昨日の彼女の顔
名前を繰り返した声
“サーシャ”
あの呼び方
昔と同じだった
でも
それが事実
空を見上げる
忘れている方が楽だ
あいつは
何も知らない方が
なのに、胸の奥がざわつく
立ち上がる
三日、
短い
また顔を合わせる
その時、自分はどんな顔をするのか分からない
ーー夕方
あなたは自室で本を閉じる
文字が頭に入らない
こんなことは初めてだ、
敵のことで集中力を乱すなんて
窓の外を見る
赤く染まり始めた空
無意識に呟く
願っているのか
恐れているのか
自分でも分からない












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。