緑川高校での撮影が終わって1ヶ月
残りの撮影も残り1ヶ月になった9月の末、やっと夏も終わりが見え始めている。
スタジオ撮影の休憩時間、隅の方に体を寄せてスマホを開くとあなたのニックネームちゃんからのメッセージが2件。珍しく慎太郎からのメッセージが3件入っていた。
もちろんあなたのニックネームちゃんからのメッセージを先に開くと、青色の花束が花瓶に飾られている写真が送られてきていた。
敬語で仰々しかったLINEの文面がラフになって、絵文字まで着くようになった。更にはあなたのニックネームちゃんの方から会話が始まるなんて…
ここが現場じゃなければ飛び跳ねていたに違いない
この約2ヶ月で映画に行って、食事に行って
その時に1枚だけ撮ったツーショットの写真を見ながら壁に寄りかかった。
写真は得意じゃないという彼女の不自然な笑顔はちょっぴり面白いけど、可愛くて。
写真を撮りたいと言い出した俺の顔は自分で見ても嬉しさが滲み出ている。
メッセージだけのやり取りでも嬉しかったのに
人は欲張りだから、どんどん次が欲しくなる。
早く声が聞きたい、顔が見たい
友達という肩書きから進展したい
そんなことを考えていれば、ぎゅっとスマホを握る手に力がこもった。
ポロリと小さな声でこぼした言葉は弱々しかった
いきなり現れた林さんがデリカシーの欠片もなくスマホを覗いてきたから、光の速さでポケットに突っ込み後ろに後ずさった。が、もう既に壁に寄りかかっていたからただ踵をぶつけただけだった。
ニヤニヤ、不快な笑顔
この人にあなたのニックネームちゃんと会ってるのがバレてるのか、はたまたは鎌をかけてるだけなのか。
いや、そもそもあなたのニックネームちゃんと俺が同級生なことも知るわけが無い人だ。適当に言って俺の事からかってるだけだろう。
ひらひらと手を振って離れていく林さんと入れ替わるように、今度は井上さんがこちらに近づいてくる。
怖い怖い
この人と裏で関わることなんて1回もなかったのに。てか嫌われてるのに
背の高い彼女とは殆ど目線が変わらない、つり目がちな猫目にじっとり見つめられればもうどうしていいかも分からない。
とりあえず笑っとくか
ぷいっとそのまま帰っていく井上さんをただただ呆然と見つめて、突っ立っていることしか出来なかった。
彼女のあれは、忠告だろうか
なんであんなことを言ったんだろう
林さんは一体何者なんだ?私情を漏らすなって何だ?
モヤモヤと気持ち悪いものが胸に残ったまま、中川さんに呼ばれセットに入った。
あ、そういえば慎太郎に返事してない
まあいっか
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。