屋敷に戻って部屋に入れば、水木様は頭を下げていた。
紗夜様は、乙米の隣に座った。
……私の座布団がないのは地べたで、ということか。
私は紗夜様の後ろに座る。
紗夜様は私に座布団を渡そうとしていたが、丁重にお断りした。
弁護士が遺書を読み上げた。
龍駕家当主に選ばれたのは龍駕克典ではなく、長男龍駕時麿。
時麿は長田時弥を養子に置き、時弥が成人すれば時弥が当主となることになった。
さらに、龍駕製薬の社長は今まで通り克典氏であるけれど、最終決定権は克典氏の妻龍駕乙米にあり、克典氏と次女龍駕丙江、分家宗たちには何の取り分もなかった。
そこからは大変だった。
取り分の無い分家宗は掴み合い、殴り合い。
私は紗夜様を私の後ろに隠れさせた。
紗夜様と逃げてきた水木様が何やら話をしているが、分家宗達が煩くて何も聞こえない。
その時だった。
地面の底から唸り声が聞こえてきたのは。
乙米は口元を抑えている。
地響きが続き、襖も音を立てて揺れている。
名前を呼ばれたので、乙米の側へ行く。
……こちらに聞いているくせに、私には一切拒否権が無い。
紗夜様と入れ違いで水木様の傍に行く。
ちょうど、ねずみが鞄を奪い取った所だった。
離の部屋に案内する。
ねずみは去って行った。
ちらちらと私の方を見てくる。
暫くして、水木様は布団で寝てしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。