龍駕時貞が亡くなった。
悲しみにくれる人もいれば、跡取り、財産のおこぼれは貰えるのか、とそういう事しか考えていない人もいた。
私は紗夜様の後を着いていく。
紗夜様の御母堂である乙米だ。
紗夜様が躓いた。
私はすかさず紗夜様を支える。
足元を見ると、鼻緒が切れてしまっていた。
……昔は直せたが、如何せん、今は腕が1本だ。
少し頬を赤らめた。
……年頃の少女には不躾だったか。
その時、1人の男が近付いてきた。
私は紗夜様の前に出て、背中で守る。
男は有無を言わさず、紗夜様の足元に跪いた。
鼻緒を直すみたいだ。
私は紗夜様を支える。
男は東京から来た、龍駕製薬会社と取引をしている者だと名乗った。
男は直した鼻緒を紗夜様の足元に置いた。
紗夜様は鼻緒を履く。
声がする方を見ると、時弥様が手を振っていた。
時弥様は走ってきた。
そして、紗夜様に抱き着き、少し談笑してから水木様を見る。
咎めるように名前を呼んだ。
水木様は時弥様の頭を撫でる。
水木様は顔を上げた。
水木様は鞄を持って、すれ違いざま、私に頭を下げて龍駕の屋敷へと歩いて行った。
恐らく紗夜様は私の腕が1本しかないことを気にかけて下さっているのだろう。
そう言って私が跪くと、時弥様は私の右側に来て、私の首に手を回した。
それを確認した私は、時弥様の太腿の付け根に腕を回して持ち上げる。
紗夜様に目配せをして、屋敷を目指して足を動かす。
もうっ!と頬をふくらませた紗夜様。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。