江戸の空気は 、 湿り気を帯びた熱気に満ちていた 。
どこまでも赤茶けた砂漠が続く烙陽とは違う 。
天を突く摩天楼と 、 江戸情緒の残る長屋が混ざり合った異様な光景に 、
私はただ圧倒されていた 。
心細さに足を早めた時 、 背後から下品な笑い声が降ってきた 。
振り返れば 、 そこには数人の天人がいた 。
一人は爬虫類のような鱗に覆われ 、 もう一人は異様に長い腕をぶら下げている 。
冷たい銀色のナイフが突きつけられる 。 烙陽で生き抜くために最低限の護身は学んだ ___
けれど 、 ここは異星だ 。
騒ぎを起こせば神威を探す前に捕まってしまう 。
私が覚悟を決めて拳を握り込んだ 、 その時だった 。
低く 、 けれど芯の通った声 。
刹那 、 天人の一人が派手な音を立てて地面に沈んだ 。
呆然とする私の前に 、 黒い隊服が立ちはだかる 。
首元には金色の刺繍 。
背中には 、 抜かれたばかりの抜き身の刀が鈍く光っていた 。
煙草を口の端にくわえ 、 紫煙を吐き出しながら振り返ったのは 鋭い眼光を持つ男 ____
連行された先は 、 真選組屯所の一室だった 。
厳しい尋問を覚悟していたけれど 、 目の前の土方さんは 、
なぜかバツが悪そうに視線を逸らしている 。
ぶっきらぼうな言葉の裏にある 、 不器用な気遣い 。
すると突然 、 襖が乱暴に開け放たれた 。
入ってきたのは 、 少年のような幼さを残した整った顔立ちの男 。
彼は土方を無視して私の前にしゃがみ込むと 、 覗き込むようにして目を細めた 。
沖田の手が 、 私の頬をそっとなぞる 。
熱のこもったその視線は 、 保護対象を見るそれではなく獲物を狙う猟師のようだった 。
さらにバタバタと騒がしい足音が近づき 、
大柄な男が飛び込んできた 。
土方の怒号が響く中 、 私は呆然と彼らを見つめていた 。
神威を探しに来たはずなのに 。
なぜか江戸の治安を守るはずの「番犬」たちが 、 私を巡って牙を剥き出しにしている 。
三人の声が重なる 。
その瞳の奥にある 、 独占欲を孕んだ熱に気付いた時 。
私の逃亡生活は 、 神威に出会う前から始まっていた 。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。