「僕は……二郎のこと、嫌いなわけじゃないからな」
「…え?き、嫌いじゃ…え?」
「……あ、まあ、だからって好きってわけじゃ」
「さぶろぉぉぉ」
突然二郎に抱きしめられる。
「ちょ、やめろよ!」
「さぶろぉぉ、俺のこと嫌いじゃなかったのか。
よかった。よかった……俺もう嬉しすぎて…。
三郎、俺もお前のこと愚弟だと言いながらも好きだからな。」
「だから、お前はそういうところがバカなんだよ。
小学生に戻って国語勉強しなおして来た方がいいんじゃないの?
僕はっ、嫌いじゃないだけで、好きだとは一言も…」
「それでも嬉しいんだよ。
今まで嫌われてると思ってきたから、嫌ってない、その言葉だけで俺はじゅーぶん」
なんだよ、なんなんだよ。
俺は十分とか偉そうに言いやがって…
…でも僕にずっと嫌われてると勘違いしてたのか。
「……これからは…少しは兄扱いしてやる」
「え!?いまなんつった!」
「…二郎のこと……兄って思ってやるって話」
「さ、さぶろぉ…」
側から見れば、血の繋がってる兄弟だ。
弟が兄に、兄として見てやると言い、それを聞いた兄が喜ぶのはおかしいだろう。
でも、
仲がとてもいいわけでもない、
お互いに嫌っているわけでもない、
時折つっかかって、喧嘩して、
なのに、なぜか気がつけば一緒にいる。
この関係が…、
僕は好きだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!