木々のざわめきを引き連れ、そう言い放った
あなたの髪を煽る様に風が強く吹いている
そんな彼女の手には、先ほど己達が作り上げた
耳飾りのインカムが握られていた。
ここは崖の上
人の目など及びもしない場、
千空の軽い挑発を受けた彼女は
今まさに崖下を歩いているコハク達を
目掛けインカムを握る手を空に掲げる。
して
お生憎、投擲は手榴弾の類で慣れてるの
挑発に応じる様に、そうふっと思い至る彼女の顔には。
どこか余裕を含んだ笑みが浮かんでいる気がした
そんなあなたの表情を化学王国の名探偵、
スイカが今しかと目撃した...かと思えば。
次の合間にはビュンっ、という小気味良い音ともに
彼女の手のひらから放たれるインカム
投げられ、宙を舞うインカムは綺麗な山を描く様に
重力に沿って落ちていき
見事。
己の上に“落とすように投げられた”物体を
感知したコハクの手のひらに握られた。
こうして、あなたの正確無比な投擲技術によって
インカムがコハクの手に渡った..と思えば。
即座に始まるのは、ぶっつけ本番の動作テスト
ここで何の機能も成すことがなかったら、ドローンで
石化装置を奪うという計画全てが泥になってしまう
____..のだが
今、自身の役目を終えた私には関係のないこと
それに、あの千空が作ったものだ
簡単に不良品でした などとは言わないだろう。
それより今は、あのモズとかいう男の対策を______、
リーダーに対する全幅の信頼の先に そう思った
矢先のことであった。
また、小難しい様な顔をして思考回路のスイッチを
オンにしようと思っていた彼女の元に
突如として舞い降りたのは空気すら
全く抵抗する事のなかったスイカの言葉
すんなりと、驚く程鼓膜が拒否する事なかったその音は
己の行為を、生き方を、存在を褒められる様な
人を救う..否。
折れた足で立たざるを得なくさせる太陽の様な言葉だった
そのたった一言で
七海あなたの眼差しが、かすかに揺れた
次の瞬間
明らかに変わった表情を汲み取ったのか
眼前の少女は私の顔を見るなり怪訝な顔をするが
そんなこともお構いなしに、あなたは自分の
思考の内へと潜り込んでいく
実際 彼女はとても驚き、動揺していた
その場で息をする10年そこら生ていない少女に
あなたは、自分ですら認める事のできない己を
呑み込まれるように、肯定されたからである
軍人として、...いや。人殺しとして
生きる私が嫌いだった
今の投擲技術すら、あれの中身が手榴弾だとしたら
確実にまた人を殺している様な力だ
褒められるため、得ようとして得た力ではない
殺さなければ殺される状況下に放り投げ込まれ
得せずして得た様な力だった
決して。栄誉ある技術でも、胸を張れるような力でもない
はず、なのに。
驚きを隠せない、といった表情をしていた
そんな彼女は、ふと。図らずも過集中に陥り
下がりきっていた目線を上げる
大きな、こっくりとした琥珀色の先に映る
私自身と 目が合った。
目が合った
彼女は、言い忘れていた
慰めに対するお礼の言葉を音として放つ
すれば、ふにゃりと柔らかく笑ってみせる。
この子から向けられる言葉は
どうしてこんなにも暖かく、柔らかいものなのだろうか
童心というものは、極清らか。
それでいて、時に残酷だ
軍人であるが故に、己の力を嫌い妬み
人殺しであるという事実を認める事を諦め逃げている
そんな自責と後悔に塗れた様な人間を
たった一つの言葉で、
折れた足だろうが立ち上がらざるを得なくする。
そんな無慈悲な明るさを、少女はごく当然かの様に
持ち合わせているのだから。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。