───お城での生活も早いもので1週間がたった。
お城に来て1番驚いたのは『陛下のワガママに付き合わされて可哀想』という私に対する周囲からの同情の声。
北部出身だということも特別隠しているわけじゃないし、もっと……こう、否定的な扱いを受けるものだとばかり思っていたから、拍子抜けしてしまった。
みんなアラン様のことを、口を揃えて「ワガママな王様だ」と言うけれど、それって"本当のアラン様"なのかな?
毎朝、アラン様を起こしに向かうことから私の仕事は始まる。
身支度を手伝ってお見送りしたあとは、お部屋の掃除や洗濯……それから、夕飯の支度。
アラン様が寝る前に温かい飲み物をお出しして、私の仕事は終わりを迎える。
まさに、アラン様の世話役そのもの。
とはいえ、週に2日は北部へ帰って、今までのように仕事をしたり、自然に囲まれてゆっくり流れる時間を大切にしている。
そんなあっという間に過ぎていく日常にも最近やっと慣れつつある。
***
国王としての仕事に向かうアラン様を見送って、私も次の仕事に取りかかった。
洗濯物のシワをパンパン!と伸ばしながら、思わず独り言を零してしまうほど、今日は洗濯日和。
ふわり、聞こえてきた可愛らしい声。
ゆっくりとその姿を探す。
そして見つけた瞬間、その声の主があまりにも綺麗で息を飲んだ。
クリクリと大きな瞳で嬉しそうに見つめられて、キョトンとする私。
慌てて頭を下げる。
まさか、こんなところで王妃様に出くわすなんて思ってもみなかった。
ゆっくりと頭を上げれば、再び綺麗な瞳と目が合う。
ふふ、とおかしそうに口元を隠して上品に笑うルシア様は「でもね」と続けて、切なげに目を細めた。
"頼もしいでしょ”と、目を細めるルシア様に、思わずジーンと目頭が熱くなってしまう。
"今度、お茶でもしましょ"なんてニコリと微笑んで、来た道を優雅に戻っていくルシア様の背中に慌ててお辞儀をする。
困った。⋯⋯成り行きで、アラン様をよろしく頼まれてしまったけれど、私は癒しの力なんて、生憎そんなものは持ち合わせてない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。